創作小説〜短編・中編〜
□[二次創作]「或る日の話」
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それは或る日の話
僕は母に頼まれ祖母の家にある書庫の掃除に勤しんでいた、妹なんぞは飽きてしまったのか適当なものを捲っては閉じてを繰り返していたようで、隣室から黒電話の音が聞こえてきたときにはもう既に眠りについていた
電話の相手は祖母であり、亡き祖父の話で会話が始まったのだが内容は次々に変わっていき最後には僕たちの話へと着地することとなった
「それでさいきんどうなんだい」
「喧嘩もなく仲良くやっているよ」
「そうかい それはいいことだね」
ふと時計を見たとき 針は一時を指していていったいどれぐらいの時間を費やしてしまったのだろうと少し後悔した
「それじゃそろそろおお昼だし妹が待っているから切るよ じゃあねおばあちゃん」
少し早口になりながらも電話を切る。
「きっとお腹を空かせていることだ」
陽だまりの廊下を走り、襖をあけようとしたのだけれども、開けかけた襖の先、見えた景色に心を奪われてしまった
そこには一枚の写真を見つめ、微笑みながらほほを赤くする妹がいる
私に気づくこともなく、ただひたすらにそれを
僕はそんな妹を知らない
「遅くなって済まない、祖母の長電話に付き合っていたんだ、お腹はすいているかい、ごはんとしようじゃないか」
耐え兼ね、襖を開ける
そこでようやく僕に気付いたらしく
さっきよりも顔を赤くし、持っていたものを隠した
「う、うん ごはんにする」
「何を見ていたんだい?」
「内緒!」
ああ、見慣れている妹の笑顔がそこにはある
「…ハハ」
違う、どうか僕にも、
醜い気持ちを悟られないように下を向くが、呑気に歩いている妹を見ていたら、
いっそのこと伝われば良いのに
というあまのじゃくな気持ちが少し、芽生えてくるのはくるはくるものの 伝わったところで意図して向けられるものでもないのは、分かっているので、ただ悲しい気持ちになる
「ねえねえお兄ちゃんはお昼ご飯何が食べたい?」
まだお昼前なのか 言い出したのは自分であると分かっているが なんだかそれ以上の時が、流れている気がする
そのくせ、お腹は減っておらずもう何にも入る気がしない
「…お兄ちゃん?どうしたの?」
訝しげに訪ねながらも笑う妹
だけれども、僕が欲しいのはそんなものではなくて
一寸やそっとじゃ崩れない其の笑顔をどうか―――