創作小説〜短編・中編〜

□夢現
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貴女の消しゴムを盗んだその日の夜、貴女の夢を見た

夢の中でも貴女は美しくて、この夢が覚めないことを祈るけれど現実は僕の気持ちなんて考えてはくれない

目覚めた時、手には消しゴムが握られていた、きっとこの消しゴムのおかげなんだろう 、僕はこれのおかげで貴女と夢で…

だけど次の日の夢に貴女は出てこなかった

得体の知れないなにかに追いかけられる夢を見たのだ、気味が悪く目覚めも最悪だった
早く貴女に…

貴女の鞄のキーホルダーを盗んだその日の夜
待ち焦がれてた貴女にやっと逢えた

相変わらず貴女は美しい、だけど触れようとしても触れることが出来ない、貴女は遠くで柔らかい笑みを浮かべている

その笑みだけで良いだけなのに満たされないのはどうしてなのだろう

また貴女に逢いたい

その日は体操服を盗んだ

そろそろ公になってきたのか、心なしか職員室が慌ただしかったが、僕はただそれを横目で見て 静かに笑った

もちろん その日の夜 貴女はまた夢に出てきた

だけどずっとうつ伏せで泣いているので顔が見えない
「何か辛いことがあったんですか」
届くかわからない言葉を出した
撫でたいのに抱きしめたいのに いつも通り僕と貴女の距離は埋まらない

そうして貴女は消えて行く
どうせなら僕も一緒に消えてしまいたいのに僕は消えることなく確かにここにいる

また貴女に会いたい


その日は家の鍵を盗んだ
これでまた今日も貴女に会えると思ったんだ
それなのに 泣いてる貴女を見てとてもそれが喜ばしいこととは思えなかった
夢でさえも貴女に触れることはできないのなら現実もまた然り
ただその姿を見ていることしか出来ない
何も変わらないのなら
せめて貴女の笑顔を見たい
僕は鍵を落し物として そっと職員室に置いた

その日の夜 貴女は笑っていた
「ごめんなさい」
涙が止まらない 夢の中なのに
僕はただ貴女の事が好きなだけだったんです
その言葉は声が掠れて最後まで言えなかった

きっともうこれから先 貴女の夢は見ることはないのだろう
そう思えばなんとも情けない別れだと思う
でもそれは僕にお似合いの結末だとも思った

さようなら 愛しの貴女
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