創作小説〜短編・中編〜

□瓦解
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「どうしてそこまで私を」

これは僕の愛する人の口癖

「愛」というものに理由などあるだろうか?
僕だって何回も何回も繰り返し考えたが結果として答えは出ずただ分かるのは

僕はどうしようもなく名無しさんさんが愛しいということだけ

「なんででしょうねぇ」

ニコって笑うと 彼女もまた引きつった笑みを返してくれる

可愛いなぁ 僕はまた彼女をベットへと押し倒してしまった 
軽く抵抗する彼女の手首を容易く掴む

「何もしませんよ 何もね」

先ほどのことを思い出したらしく顔が真っ青になっている

分かっているんですよ 名無しさんさんを愛しているんだから

名無しさんさんが僕を愛していなくて むしろなんなら嫌なことぐらい

…嫌と云うのは語弊があるかもしれない

「あぁやっぱり嘘です」

「僕のこと「好き」って言ってくれませんか?」

僕が名無しさんさんを恐怖で支配していることぐらい分かっている

「え…」

眼をぱちくりとさせ 僕を見つめる

それでも 僕の本当の心など名無しさんさんに届きはしないのだろうと思うと少し悲しくなる

「…なんで」

そんなに戸惑うほどに僕のお願いは滑稽だっただろうか

「…なんで泣いて」

「…あ」

気が付いたら、僕の頬には涙が伝っていた

オロオロしている彼女 それでも好きとは言ってくれない

つまりはそういうことなんだ

「…このまま家に泊まってくれるかい?」

僕は涙を拭い そう問う

「あっ明日は月曜なので…」

今日だって僕があんまりにも言うから仕方なく来たんだ という顔
そこに僕を心配する様子はない

「…もう遅いので…失礼します」

泣きたいのはこっちだと言わんばかりに、僕を放置して名無しさんさんは出て行った

「…人間ってのは我が儘ですねぇ」

名無しさんさんが恋しかった 
だから物を真似た 欲しがった
名無しさんさんが手に入って満たされると思っていた

だけどそれは違うかった

「名無しさんさんが欲しい」

名無しさんさんの心が欲しい

わかっている わかっているんだ

名無しさんさんが本当の意味で僕を好きじゃないことぐらい
それでも良かったんだ 
現に手放す気なんて更々ない

名無しさんさんが僕を死ぬほど憎んだって僕の傍に居てさえくれれば 僕は幸せだ

そう僕は

「僕だって…」

「僕だって名無しさんさんと幸せな未来を送りたかった」

名無しさんさんに愛されたかった 好きと言って欲しかった

こんな僕にだって 人並みの願いはあったんだ

あの時 名無しさんさんが僕の名前を読んでくれたとき

とてつもなく嬉しくなって

たまらなく幸せになって 抱きしめてしまって

名無しさんさんを怖がらせてしまっていることなんてわかっていて

だけどそれでも 逃がす気なんてなくて

名無しさんさんを逃がしてしまうぐらいなら縛り付けておきたくて

許してくれなんて言う気もないし思ってもいない

「…僕は…僕は名無しさんが思うほど非道い男じゃないんです」

なんて今更引き返せない

「…名無しさんさんも」

「僕のことであたまがいっぱいになって 狂ってしまえばいいのに」

そうしたら僕の気持ちがわかるだろう


どうして僕は名無しさんさんがこんなに好きなんだろう

未だに答えは見つからない

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