「貴女に花を」

□第二話
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そもそも何故ハイデの森に立ち寄ってはならないとされてたその理由に、魔王が使われたのか、それにはきちんと意味が存在している
この森には化物が住んでいたからだ
人伝て曰く、角の生えた人間の形をした化物が
しかもその化物は火を自由に操るだとか水を自由に操るだとか…
まあその情報は嘘か本当かは知らない
ただ化物が存在しているという事だけは本当であり事実だ
私にはそれを裏付ける根拠もある
第一私が馬を走らせてるのもその化物に会う為だ
勿論、居場所は知らない絶対に会えるという根拠
もない
ただ本当に存在はしているのだ 
であるならば会えると信じ私は動くしかない

例え途中で力尽きたとしても、生贄として野垂れ死ぬよりかは余程、いや大分マシだ



馬を走らせ数時間が経ったのだろうか
日が暮れ始め、徐々に森が薄暗くなってきた
この調子では暗くなる前に見つけることなど、常識的に考えて不可能だろう
だからと言って、日が差すのをここでじっと待つのは私の性分に合わないし何しろ私は野宿というものをしたことがない
「…最悪崖に落ちてもそれはそこまで」
私は本当に死ぬ覚悟を決め、止まらず走り続けることを決めた
「朝まで体力もってね馬…!」
私が手綱を強く握り締め、走り出そうとしたその時

「ハハハッ!これはこれはとんだおてんば娘がいたものですね」

唐突に笑い声が頭上から聞こえてきた
声から察するに青年だろうか 
私は驚いて上を見る
どうやら、木の枝の上に座りこちらを見ているようだ、しかし全体像は分かっても顔などははっきりと見えない
「貴方が化物なの?」
私は失礼とは思いながらも、単刀直入にそう聞いた
「おやおやせめて魔王様と呼んで欲しいものです」
そう言ってまたその男は笑った
「貴女は化物基い魔王様に会いにでも来たのですか?」
男はケラケラと笑いながら、そう私に問いた
「ええ、居場所を知っているのなら教えて頂きたいわ」

「報酬は?」
男の声が途端に冷たくなる
「報酬次第、でご案内致しますよぉ…何も持っていないのなら残念ながらさようならですがね」
そう言って男はまた笑い声を上げた
…何て喰えない男なのだろうか
「…この馬車の後ろに、男の死体があります」
心なしか男が反応したように思える
「どうぞ、ご自由に」
私がそう言った途端、男の笑い声が止んだ
「…死体の調達は何処から?」
「私をここへ連れてきた従者を殺してそのまま連れてきたの」
静寂が訪れる
いつの間にか日は落ち、暗闇があたりを包む
私は相手が口を開くのを大人しく待っていた
しばらくすると、男がようやく口を開いた
しかしそれは言葉ではなく、ほぼ叫び声に近いものだった

「…ッハ…ハハハハハハハッッッ!!!!」
「面白い!!!実に面白いですねぇ…読めましたよ貴女はあの生贄姫の名無しさん様でございますね…そうですかお殺りになられたのですか…道理で術者が帰ってこないと軽く騒ぎになっていたわけです…ハハハハハハハ!!!!」
男は半狂乱的に叫び、笑っている
「良いでしょう気に入りました!生贄姫様を是非とも魔王の元へ案内致しましょう!」
そう言って男は勢いよく木の枝から飛び降り、私の目の前へと着地した

「では生贄姫様、御案内させていただきます」
「御手を」

そう言って男は恭しく頭を下げ、左手を差し伸べた
男の右手にはいつの間にかランプが握られている
俯いているせいで、顔はよく見えない
髪の色は恐らく金髪だろう、ランプの光に反射され妖しく光っている

「…生贄姫という呼び方は、やめてくれないかしら」
「…ハハッそれもそうですよね、では失礼ながら名無しさん様と呼ばせていただきましょう」
「だけど代わりに、私のことも是非名前で呼んでいただこうではありませんか、でなければ平等でありません」

男はスラスラと言葉を並べ、饒舌に喋る
「…あぁそう、それならば問うけど貴方の名前は?」
「ラヴァンド と申します名無しさん様」
ラヴァンドの返事を合図に私は男の手をとった
「それでは 御案内を」

男は顔を初めて私に見せ、微笑んだ
月並みの言葉だが、その顔はとても洗練されていて、整っており、とても美しいものだった
しかしとても人間離れしたその美貌は、何処か薄気味悪いものがあり、その男の手を取り歩くという行いは、悪魔に魂を売り渡すのと同意義であると不思議と私は思ってしまった。

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