創作小説〜短編・中編〜

□偽りと誠
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某日 卯の下刻 田中名無しさんの担当医の言葉より───

あぁ 僕と彼女が出会ったのは、僕が高等学校 彼女が小学校に通っているときだよ

恥ずかしい話、世の中の何も知らないわけだった僕だから、挫折などというのも味わっていなかったのも相まって人の世というのに飽いていたんだ

特に 人嫌いというわけでもない と言ったら嘘になるけれど、まあ今よりもっと酷かったんだ

確かそうだ あの日も 僕はこの世に気だるさを感じて、当てもなくフラフラと歩いていた

あぁ…そうだねそこで彼女に出会ったんだ

公園で一人で遊んでいる彼女がね

始めは、こんな時間に幼い少女が居るだなんて珍しい学校はどうしたんだろう なんて思って まあ喋りかけはせずに軽く見ていたんだよ

すると僕のことに気付いたのか彼女がいきなり駆け寄ってきてね

なんて言ったと思うよ?

そうだ分からないだろう 彼女はね

「一緒に遊ぼう」って言ったんだよ

いやあ驚いたね

まさかこの年になって茶屋へのお誘いではなく 公園のそれが来るとはね

まあそれでも当たり前のことだよ

そりゃ聞き返したさ

「どうして僕なんだい?」って

すると

「一人はつまんない」

ってさ

そうして僕の手を引っ張ったんだ

…実はね それを聞いて少し嬉しかったのもあったんだよ

ほら まあ今となっては天職だとは思っているけどね この職に就くために勉学 勉学ばかりでその上この性格なのもあって、友人と言える者も居なく遊んだこともなかったからね

それこそ女子からのお誘いなら大量にあったんだけどね
どれもこれも盛りの激しい豚にしか見えなかったし…

その分彼女は

…え?長くなりそうだから省略してくれ?
じゃあ君 何を聞きたいのか言うのが筋だと思わないかい?

僕だって好きでこんな時間を割いているんじゃない 彼女の為に仕方なくね

…あぁ恋人になったのはいつかって?

その日の別れ際だよ

恋人…というか婚約者だね

求婚したんだよ

運命であると信じたんだ 

彼女との出会いを

絶対に手放してはならないとも思った

まあそうしたら彼女は いいよ って返してくれんだ

だから僕はこうも続けたさ

「大人になって職についたら君を必ず迎えに行く そしてこの世で一番幸せにしてあげよう 不幸な思いなんて絶対させないから」

って そうしたら

私、待ってるね って笑ってくれて…

あぁ可愛かったなぁ

えっこのことを両親は把握して承諾しているのかって?

…あぁちゃんと再会した時に言ったよ

祝福だってしてくれたんだ それなのに…それなのに!
どうして僕が担当じゃなかったんだ そしたらあんな術中死なんて起こらなかったはずだ 僕があんなミスをするわけが…!

…あっあぁすまない君に当たっても仕方がないね

…そうだね そろそろ一ヶ月ぐらいが経つ…お葬式?

彼女は疲れていたから僕が代わりにやったよ
まあ身内だけの軽いものだけどね

…えっ?言い分が合わない?

…彼女はまだ疲れているんだよ
僕が、彼女の辛さや悲しみを取り除けたら良かったんだけど…流石にこればっかりは時間が過ぎるのを待つしかね…

…あんな子を捨てて新しい人を探す気はって?

…彼女が幾ら僕に対して非道い振る舞いをしたって 愛しているんだから

他の誰も探すわけがないだろう?
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