確かにそれは恋だった

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――ドタッ

盛大に転ぶ音が聞こえ、辺りが一瞬で静かになった。

ボールはコロコロと転がって持ち主から離れていく。

「……咲良ちゃん、大丈夫?」

千鶴は慌てて倒れた咲良の元へ駆け寄る。

「大丈夫。転んだだけだから」

そう言って咲良はボールを取りに行った。

今は球技大会の練習の為、体育の時間を使ってバスケットボールの練習をしていたのだが。

(くそ)

走りながらボールをドリブルさせながらゴール。その感覚が分からない。

おぼつかない走り方をして、また転んだ。

「……ひょっとして、咲良ちゃん、バスケ苦手?」

「……」

認めたくないのか、グッと黙る。

しかしその態度が既に認めているようなもので。咲良は渋々口を開いた。

「運動は苦手」

二回も転んだ咲良を心配して体育教師の原田も駆け寄ってきた。

「大丈夫か?」

「今の所は」

周りも咲良の異変を察してざわついてくる。

「アイツバスケ出来ないのか」

「うちのクラス大丈夫かよ」

ヒソヒソと会話が聞こえてきた。

(だから言いたくなかったんだけど)

「別に足手まといになるつもりはないから。でもそれ以上頑張るつもりはない」

また静まりかえった。千鶴は慌てていて、原田は呆然としていた。

「……とりあえず如月はドリブルが上手くできるようになってからその台詞を言うべきだったな」

原田の一言で周りは笑いに包まれる。

咲良は納得できないようで少しふくれっ面になっていた。

千鶴は明るくなった空気にホッとする。

「一緒に練習しよう?」

「……」

返事こそしなかったものの、拒否はしなかった。

「中学の時は部活入ってなかったの?」

「興味なかったから」

「生徒会に入ったのは?」

「……」

なんて言うべきか。まずこの学校に来たのは、生徒会に入るためだったのだから。

「知り合いがいて、頼まれたから?」

あながち嘘でもないがかなり苦しい。

それでも千鶴は納得してくれたようだ。

「そっか。先輩達に生徒会のことを聞いたらいつも苦笑いされるんだよね」

「その反応は間違ってはないと思う」

「フフフ。ねぇ、風間先輩ってどんな人?」

「横暴。人の話を聞かない。我が儘。絶対に自分の意見を曲げないところが鬱陶しい」

あの男に関する事はこれだけじゃ収まらない。

つらつらと語り出した咲良に千鶴は呆気にとられた。

「じ、じゃあ尚更なんで生徒会に?」

「世話係みたいなもんかなぁ。あの人、結婚相手が見つかるまで卒業できないの」

「え!?」

「だからずーっと高校生してるの。それで私が学校にいる間なんとかして相手見つけて、平和な学生生活を過ごせるようにするんだ」

「大変、だね」

そうかな、と咲良は首をかしげる。

「まずはバスケ頑張らないとね」

「……そうだね」
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