確かにそれは恋だった

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幼馴染みである藤堂平助に誘われてこの学校へ来た。

元男子校で、当然女子は少ない。少ないどころかたったの二人しかいない。

雪村千鶴と、もう一人。

如月咲良。咲良とは同じクラスなのだが、まだ話せていなかった。

(入学初日だし仕方ないけど)

式が終わってから咲良はすぐにどこかへ行ってしまった。

千鶴は藤堂から剣道部の勧誘を受けて、ひとまず見に行こうとしていた。

それで咲良を誘ってみようと探しているものの、見つからない。

(さ、流石私立高……大きい)

このままだと自分が迷子になってしまう。ここはいったん戻るべきか。

「……あ」

そう思った矢先、向こうの部屋から咲良が出てきた。

少し疲れた顔でドアを閉める。千鶴は慌てて咲良を追いかけた。

「き、如月さん」

咲良はこちらを振り向く。

「えっと、雪村さん?」

黒のロングヘアーに切れ長の目は、最初クールな印象を受けた。

「どうしたの?」

「えっと、今から剣道部に見学に行こうと想っているんだけど……よかったら如月さんも行かない?」

「……」

咲良は少し考える素振りを見せて、

「見に行くだけなら」

「本当!? ありがとう!」

   〜

「あ、千鶴−!」

一つ上の幼馴染みは武道場の来訪者に向かって手をブンブンと振る。

「あの人が、幼馴染みの人?」

「うん」

藤堂は千鶴の元に駆け寄る。

「おまえも入ってくれるのか?」

「私は雪村さんに誘われて見に来ただけですから……」

「そっか。でも見学は自由だから!」

ニッコリと笑った藤堂に咲良は少しの罪悪感を覚えた。

向こうで稽古始めるぞ! と大きな声が響いた。

あの顔には見覚えがあった。

「あの人……」

「あ、担任の先生だよね。確か土方先生だっけ」

そんな名前だったか。スーツは着ているものの上着を脱いでワイシャツになっている。

土方の声で部員は一斉に練習を始める。

「あれ、練習始まってる」

二人の後ろから声が聞こえた。

振り返ると茶髪の、完全に遅刻した体でいる男性がいた。

「お、沖田先輩」

千鶴は慌てて沖田と呼んだ男に駆け寄る。

「やぁ千鶴ちゃん。隣の子は確か、如月咲良ちゃんだっけ?」

「なんで知っているんですか」

「有名でしょ? 元男子校に二人の女子が入ってきたんだもの」

そういえばそうだ。ということは自分のことはほぼ全員に知られているということになる。

「それより先輩、もう練習始まってますよ」

「分かってる分かってる」

遅刻したことを全く気にしていないのか、飄々としている。少し軽薄な印象を受けた。

「総司」

今度は稽古着を着た真面目そうな男性がいた。

「これで何度目だ。これからは一年も入ってくるんだ。もう少し示しがつくようにしろ」

「はーい」

沖田はあっさりと彼の言う事を聞いて着替えに行く。

「……あの人は?」

「斎藤先輩。すごく真面目な人だよ」

ふぅんと曖昧に返事を返し、斎藤を見る。

どうやら今から試合を始めるようだ。

一礼して竹刀を構える、洗練された様子は美しかった。

「ここの剣道部って、強いの?」

「うん。去年は全国に行ったって」

それは知らなかった。確かこの学校の部活動は盛んだと聞いたはずだった。

「如月さんは部活は入らないの?」

「生徒会入るから、部活は出来ないかな」

それと、と咲良は付け加えた。

「咲良でいいよ。クラスメイトだし。私も千鶴ちゃんって呼ぶから」

「……うん。よろしくね、咲良ちゃん!」
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