nnmy

□29
1ページ/2ページ




―わたしね?大きくなったら、はるあきくんとけっこんするの!

――え〜!春秋ずるいなー!お兄ちゃんは〜?

―おにいちゃんともけっこんする〜!!

――よっしゃ!約束だからな〜!

―――はるあきくんも、おにいちゃんもだいだいだ〜いすき!!




「っ…」



浅い眠りの中で響いた幼い記憶

はっきりしない脳内でこだます兄と自分の楽しげな声

うっすらと開かれた睫毛を濡らすのは埋まらない寂しさ

「おにい、ちゃん…っう、…ぐすっ…」

カーテンから漏れる光はその瞳に届かない

始まりを告げる鳥のさえずりは頭頂まで覆われた毛布が遮った

たまにみる自分と最愛の兄はいつも幼い

自分はあの頃のまんま、という兄のお叱りなのだろうか

前を向いているつもりでも、進めていない

そんなことを言われている気がして

痛む目頭を冷えた手で押さえながらため息をつく

重みを感じる瞼を冷水でリセットしよう

軽く伸びをし、よしと呟けば強制的に覚醒する身体

ふと目覚ましをみると普段より長い時間眠っていたことが分かり驚く

「平日だったら遅刻だね」

きっと起こしてくれる母親ではないと理解しているため、今日が休日であることを心から感謝した

ベッドから足を下ろすとテーブルの上に置いていた携帯が震えた

長いバイブレーションはきっと電話だろう

急いで端末を手に取り画面をみると

"二宮さん"と自身が登録した名前に心拍数が上がった

用件を予想する前にスワイプする

繋がった緊張感を隠しながら、耳をあてる

「はい」

「ああ、おはよう、二宮だが」

彼の挨拶にきちんと返事をし、用件を待つ

しかし、なかなか話し出さない二宮に

通話が切れてしまったのかと不安になり画面を見直す

「あ、あれ?二宮さ…「名前」

話し出すタイミングはほぼ同じ

自分を呼ぶ二宮の声が遮り、戸惑う

「あ、はい!」

きちんと会話が立て直るよう、綺麗な返事を句点とする

「何があった」

「え?」

優しい瞳が脳裏に浮かぶ声色で問われ

なんのことか、と聞き返してしまう

「まあいい…今日予定がないなら本部に来い、じゃあな」

「え、ちょっ、二宮さん!?」

返事を待たずして一方的に終了する会話に拒否権などないのだろう

別に急ぐ用事でもないということは

何か美味しいお菓子でもあるのだろうか

わざわざ連絡してくれるなんてやっぱり優しい人だ

うんうん、と彼からの連絡を勝手に解釈し

先ほどまでの暗い気持ちが嘘みたいに晴れた

二宮の不器用な優しさは名前を癒し笑顔にする

「大丈夫」

ぐっと拳に力を入れ自分を励ます

心に映るのは二宮のわかりにくい微笑み顔

彼に向かい、大丈夫と呟けば

本当にどんなことも乗り越えられる気がした

「美味しいお菓子食べるんだもん」

急いで着替えなきゃ

彼女の部屋から聞こえる慌ただしく床を踏む音が

なんだかすごく楽しそうに感じ

思わずクスリ、と笑ってしまう母親

「名前ちゃん、大丈夫」

胸に手をあて、魔法の言葉を囁けば

階段を駆け下りてくる天使のような我が子の笑顔

いつになく澄んだ表情の名前に母の魔法が届いたのかと嬉しくなる

「名前ちゃんおはよう!今日も可愛い!ん〜!!」

「うぎゃ!お母さんぐるじい!!」

苗字家の眩しい休日の朝は

幸せ以外のなにものでもなかった



_
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ