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二人の間に、温かな風が流れる

すっかりと染まった空が明日の快晴を知らせる


「辻くんって、女の子苦手じゃなかった?」

くすっと笑う名前に体温が上がる

「苗字さんこそ、男は苦手なんでしょ」

ぷいっと顔を背ける辻に

「辻くんは特別かも」

口元に手をあてクツクツと笑い出す名前の言葉に

不覚にも、かあっと頬が染まったが

眩しいほどの夕日がそれを隠してくれた

「俺は…」

首を傾げ、優しく微笑む名前は

以前までの堅くクールな印象とは別人

本来の表情を取り戻した彼女の笑顔は無敵だった

「苗字さんの話が聞けて、よかった…と思う」

辛かっただろう過去を話してくれたことに感謝の意味も込める

「私も、辻くんに話せてよかったよ」

「俺で良ければ、頼ってくれると…嬉しいかな」

まだ癒えない傷を心配する辻に

ふっと泣きそうになったが、それはきっと嬉し涙

「また一緒に帰ってくれる、かな」

視線を逸らしながら呟く辻に

私からもお願いします、と頭を下げる名前

目が合えば笑いが零れ、微笑み合う



「じゃあ、今度こそ」

「うん、また明日ね」



せめて辻の背中が見えなくなるまで、とその場に立ったままでいる

冷えるから、と家に入るよう促す辻は早足で来た道を引き返していった



「お家、逆方向だったんだね…」



見えなくなった背中を最後まで見届け

自分の家とは逆方向の名前を家の前まで

それもバッグまで持たせたまま歩かせたことに罪悪感を覚えたが

辻の不器用で、さりげなく、大きな優しさに

また緩んでしまう涙腺を、目に染みる風と夕日のせいにしてその道をずっと見つめる



「ありがとう、辻くん…」



こぼれた言葉は無意識に近い

自分の潜在意識にある恐怖の沼

沈む自分に手を差し伸べ引きあげてくれた辻は

それこそ王子様か、救世主か

名前の持つ特殊な能力にも左右されない

彼の見抜く力と、向き合う勇気に感激さえした

明日はもっと、上手に笑えるかな

ほのかな期待を持って、玄関のドアに手を掛けた

軽くなった心に気分が良くなる

本当に不思議で仕方ない心境の変化が

嬉しくて仕方ない名前は

久しぶりにこんなに話したから喉が渇いたと

真っ先に冷蔵庫から冷えた飲み物を出して一気に流し込んだ

ぱあっと全身を巡った爽やかさは心の中まで綺麗に澄み渡らせた




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