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"名前"

彼の声を思い出し、トクンと胸が跳ねる

「二宮さん…」

うるさい胸を抑えるとより広がる彼との思い出

優しく宥める大きな手、温かく逞しい胸板

何よりも、自分にしか向けられない柔らかな微笑みが

名前の穴の空いた寂しい心を埋めてくれた

自分はこの人を必要としているのだ

大切に思う気持ちを段々と濃く示される

仏頂面の中に隠された深く大きな愛情は

しっかりと名前の心に沁みわたっていた

"好き"

そう自覚すると心はすっと軽くなり清々しさを感じる

「こんな気持ち、初めてだよ」

時刻は午前0時をまわったところ

大切な彼を思うと、眠ることさえ困難になる

ベッドの上でかれこれ数時間何度も身体を捩り落ち着かない

目が覚めれば土曜日の朝、そして恋心を覚えてしまった彼と会う約束をしている

寝不足気味の顔じゃ会いたくない、そう焦ると余計に眠れなくなってしまう

「ああ〜どうしよう…」

ばっ、と布団から勢いよく上半身を起こしたとき

外から雫が落ちる音が聞こえた

ベッドから立ち上がり、そっとカーテンを引くと

しとしと、小粒の雨が窓を濡らしていた

「お兄ちゃんにも会いに行かないとね」

以前と違い、雨の日が辛くはなくなった

弱い自分に打ち勝てたこともそうだが

自ら愛したいと思う存在ができたことが

とても大きな心境の変化をもたらしたのだ

無意識に頬が綻ぶ、カーテンをゆっくり戻すと

熱が引いた心のまま、またベッドへ身体を戻す

今日はこの静寂に響く空の音色を子守歌に眠ろう

目が覚めたら、最愛の兄に会いに行こう

そして愛を教えてくれた彼に、気持ちを伝えよう

返事がどうとか、そんなことは考えなかった


「私は、二宮さんが大好き…」


ただそれだけを彼に伝えたい

自分の気持ちを知れば知るほど溢れる愛情が

とても心地よく、雨音を聞きながら意識は遠のいた


夢でも会えますように


眠りに落ちる前、そんなことを心で呟いた




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