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「二宮さん?どこへ行くの」

「もう少しで着く」

微笑んで問いかければ優しい声色が返ってくる

「あっちは、警戒区域ですよ」

「ああ」

はじめは、どこへ向かうのか分からなかったが

段々と近づく目的地に勘付き始める名前

確実に自分たちは危険と称される警戒区域へ向かっていた

危ない、行っていい場所ではない

そうわかっていても、振りほどけない彼の冷たい手

ついにその境界線を越えてしまった

すっかり人気のない閑散とした風景に緊張が増す

ふう、と自分にしか聞こえない深呼吸をして

手は繋がったまま彼と向き合うように身体の向きを変える


「お願い、二宮さんの姿でいるのはやめて…」


泣いてしまいそうな瞳が冷ややかな二つの鳶色に映る


「…貴様、いつから気付いていた」


姿かたちは二宮そのもので名前に問いかける

「はじめから気付いていたよ、あなた…とっても冷たいんだもの」

自分を見おろす瞳、握る手だって、温度がない

「ならばなぜ、攻撃しない」

「私にはできない…たとえ偽物だとわかっていても」

「愚かな玄界の兵め…」

ぐらっと視界が揺らいだのは一瞬

彼の放った言葉と同時に地から浮く足

「ぅっ、ぐ…!!」

軽い生身は容易く宙へ浮き

二宮の姿のままでいるそれに、首を締め上げられる

傘はとっくに投げ捨てられていて、あっけなく転がる様子が視界の端に映った

お気に入りの洋服も、せっかく整えた髪の毛も

冷たすぎる雨に容赦なく呑み込まれた

頬、唇を伝う雫は空からなのか、苦しさに歪む瞳からか

「玄界への恨みは深い…」

手にこもる力が強まり、呼吸が続かなくなる

「や、めて…!はっ…!!」

ばたばたともがき苦しむ名前の抵抗は虚しいものだった

ああ、もうだめかもしれない

ふっと脳内で呟いた言葉は何故だか悲しくない

偽物だろうと、彼の手で永遠に眠れるなら…


自身の首を掴む手に添えた手を離し抵抗をやめようとした、そのときだった


「!!!」


宙に浮いた身体が突如、重力のまま落下し

びしゃり、と音と飛沫を立て地に倒れ込んだ

突発的に解放された喉が急に空気を取り込み始めむせ返った

仰向けになっているせいで目は開けられない

自分は助かったのかと打ち付ける雨粒を感じ認識する

少し離れたところで爆撃のような音がしたが

曖昧な意識の中では遠くの衝撃に聞こえる

「に、にのみや…さん…」

呂律の回らない意識もあやふやな中

なぜだが彼の名前を呟くことができた

けほけほ、とむせては荒い息がまだ苦しい




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