nnmy

□14
2ページ/2ページ




今日はやけに話し掛けられる日だ、意識しているから余計にそう思うのか

それにしても普段会話を交わさない人とまで話しているため、気のせいではないことが示される



「名前〜?名前のこと呼んでる人いるよー」

お手洗いから帰ってきた友人の一人が

輪の中に戻るなり廊下を指さす

ひょこっと教室を覗きこちらに手を振っている男子生徒がいて

その姿に名前は思わずため息が出た



「誰あの人?王子様みたい!」

「愛の告白じゃない!?いくらイケメンでもダメよ!名前はあげない!」

「ちょ、ちょっと!声大きいから」



勝手に騒ぎ立てる友人達を宥め席を立つ名前




「王子くん、どうしたの?」

廊下に出て呼び出した本人に用を伺えば

相変わらず爽やかな笑顔を見せ名前の手を取る

その行動にも「またか」とため息

次にくる言葉が予測できるあたり

自分は彼に幾度となく捕まっているのか分かる



「この間の君の戦いぶりは本当に素晴らしかった!ますます惚れ直したよ、プリンセス!」


よくもまあ恥ずかしいセリフを綺麗に言ってのけるもんだ


「ありがとうね、でもやっぱりそのあだ名は変だよ」

「なぜだい?ぼくが王子なら君は姫だろ?」

「疑問に思うことが怖いよ」



いつからだろうか、この男とよく話すようになったのは

高校の入学時だったような気がする

初対面で"プリンセス"と呼ばれたときは

顔から火が出るほど恥ずかしかった

本部でもたまに会うがその度に聞く彼の独特の感性は

もう修正の利くものではないと理解し、今は半ば諦めている



「やはり君は強く気高く、そして美しい!空の守り神だなんて君にぴったりの言葉だね

ぼくは君の守る空の下で戦えることを誇りに思うさ」


両手を握る力がぎゅっと強くなり、ぴくりと反応する

熱のこもった彼の褒め言葉に思考とは裏腹に頬が染まる


「あ、ありがとう…恥ずかしいけど、嬉しいよ」

「っ…!」

上昇する体温で潤んだ瞳が彼を見上げる

二人の姿はまるで本物の王子と姫のようで

周囲の時を止めてしまうほど画になっていた



別にいつも、からかっているわけではない

ただ本当に苗字名前という人間が好きなんだ


遠くで見ているだけでは離れていきそうで

近づきすぎるとやけどをしてしまいそう


太陽のような彼女に自分という存在を示したい、彼女の心の中にいたい

例えそれが"鬱陶しいやつ"という立ち位置であっても

彼女の瞳に自分が映ることが嬉しくて仕方ないのだ


本気で好きだと言ってしまえば二度と近づけない気がして

伝えたい心の内を言葉の裏に隠してきたにも関わらず


彼女はずるい子だ、そのみえない努力さえ一気に崩してしまいそうなほど

自分と真剣に向き合い、心からの笑顔をくれる



「もたなくなっちゃうよ」


困ったような顔で微笑む王子は

名前の頭をさらりと軽く撫で

"また来るから、名前ちゃん"

名前にしか聞こえない声で甘く囁くと

優雅に手を振り自分の教室へ戻って行った



「ちゃんと名前で呼べるじゃない」


してやられた気分になった名前の不満げな呟きは

誰の耳にも届かず休み時間の空気に吸い込まれた



_
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ