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「名前さん」



訪れるはずの痛みは来なかった

その代り、柔らかい温もりと優しすぎる声が名前を迎え入れた



「つ、辻くん!?」



思い切って開いた瞳に真っ先に映ったのは端整な顔立ち

驚きのあまり言葉に詰まるが

吹き飛ばされた自分を寸でのところで抱きとめてくれたらしい

細身に見えるがやはり男の子だ、逞しい片腕にしっかりと収められる

女性が苦手な辻が自分を助けてくれたことに感激を覚えたが

何よりも助けが来たという大きな安心と恐怖からの解放で涙が出そうになる


「辻くん、ありがとう…」


もう足に力が入らない名前は

縋るように辻の首に腕をまわした


「っ!名前さん、ああ、あの、そのっ…!」


公園前を通りかかった時に聞こえた凄まじい音と共に

吹き飛ばされ人形のように宙を舞う名前が見えたときは心臓が止まるかと思った

形相を変え飛び込み、なんとか抱きとめることができたが

いざ我に返ると恥ずかしすぎる状況に思わず赤面する辻




「辻ちゃん!俺が戦ってる間に名前ちゃんとらないでよね!!」


赤面しながらも名前の異変に気付いていた辻は

抱きとめていただけの腕で名前を横抱きにし直した

その様子をみて頬を膨らまし拗ねた様子の犬飼が戦闘を終え歩み寄る



モールモッドなど彼の敵ではない

すでに亡骸となったそれらが犬飼の能力の高さを物語る




「あ、澄晴くん…ありがとね、本当に助かりました」

尚も辻の腕の中で弱々しく笑う彼女


「名前ちゃん、大丈夫?今日は体調悪いって友達から聞いたよ?」

「うん、真っ直ぐ帰ろうと思ったらこの有様だよ…トリオンもないみたいだし、踏んだり蹴ったり」



埃っぽい頬が逃げ凌いだ時間を示すようで

思わずその頬に触れ、白を汚すそれを拭ってやる

柔らかな肌は異常な熱さを持っていた

汗ばんだ額と荒い息が色っぽさを醸し出し

触れた指先から、伝わる熱で自分の体温まで上がりそうだ


「よく、頑張ったね」


名前の前だとどうしてこうも

素直な自分でいられるのだろう

へらりとした普段の表情からは考えられないほど優しい目は名前だけを映す

ただ、彼女が自分の後輩の腕の中にいるということだけが唯一の不満だが

名前の心底安心したような笑顔を前にしたら

そんな不満も風になびいていった



「ここは危ないので、ひとまず離れましょう」

「そうだね、名前ちゃんが自宅に一人は心配だから本部に行こう」


辻の提案に頷き、安全地帯へ向かうことに決めた


「辻くん、ごめんね、私…歩けそうもないんだけど…」

「大丈夫です、ずっとこうしてますから」


返事と同時に合わせた視線にドキリとする辻


熱に浮かされ潤む瞳に吸い込まれそうになった

ありがとう、と呟き辻の胸に頭を預ける名前が

眩暈を起こしそうなほどに愛らしかった




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