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名前は違う、他の誰とも重ならない

世界で唯一の存在なのだから当たり前ではあるが

"女性"という意味で、彼女は他の者とは違うものを持っている

初めて会ったその日から、特別に思えた名前の存在

高嶺の花と言われるその容姿だって

無償の愛情と可憐な笑顔だって

自分だけのものではないとわかっていても

目の前で微笑む彼女を前にしたら自惚れてしまいそう

最初こそ会話に苦労したが彼女の優しい笑顔と

自分の気持ちを手に取るように感じてくれる心遣いが辻の固く閉ざされる心を開いた

コミュニケーション能力に難のある自分は

どこか犬飼達に妬いている部分があったのかもしれない

自分だってあんな風に彼女を笑わせることができれば

二宮のようにさりげなく髪を梳いてやるくらいの度胸があれば

彼女はもっと自分に微笑んでくれるのだろうか

「よかったら食べてね」

手土産にシュークリームを持ってきた名前が

いつもお邪魔してるお詫びとお礼、と苦笑しながら皿にそれを並べる

以前、シュークリームが好きだと些細な会話の中で明かした辻

そのたった一言を律儀に覚えていてくれたことに感動する



「名前さん」

「なあに」

他の誰もいない二人の世界で彼女の名前を呼ぶ



「あ、いや…その」



呟いたはいいが、その後のことなど特に考えていなかったことに気付き

流れた沈黙に、思わず目が泳ぐ

辻の様子に勘付いた名前は優しく微笑む




「ゆっくりで大丈夫だよ、私は辻くんのそういうところも長所だと思うから」



一生懸命考えてくれてる証拠だもんね



ね、と澄んだ微笑みを向け首を傾げる彼女に眩暈を起こしそうだった



「苦手なことに向き合うってすごく勇気がいるもんね」

自分の横に腰掛ける距離は

離れすぎず、近すぎず

彼女の的確すぎる心遣いが胸を締め付ける

「でも、俺は…」

身体が勝手に動くようで自分でも驚く

少しだけ開くその短い距離を自ら詰める

触れてみたいと見つめるだけだった

白魚のような滑らかな手肌を自分のものと重ねる

大きな瞳をさらに大きくさせた名前は

変わらず優しく微笑み、自身の行動への不安を溶かす



「名前さんだから、話したいって…思う、名前さんだけ、だから…」



俯きながら、たどたどしいものではあるが

なんとなく伝えたいことを言えた気がした



「ありがとう、嬉しい…っ!!」



ぱあっと目を輝かせ自分の胸板に飛び込む名前に

発作を起こして気を失いそうだった

ぎゅうっと抱きつき、ふふふと笑う彼女

抱きしめ返してもいいのだろうかと

そっと背中に両腕をまわしてみれば

驚くほどに華奢で頼りない背中

一瞬躊躇うが、力加減を意識してきゅっと胸に彼女を収める

温かく、柔らかく、甘い香りのする名前が

より一層愛おしく感じ、この感覚が癖になってしまいそう



「この間、春秋くんに、仲の良い人に抱きつく癖をいい加減直せって怒られたばっかりなんだった」



ま、いっか!



自己完結して辻の胸に顔をすり寄せる名前が

可愛くて可愛くて、おかしくなってしまいそうだった




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