nnmy

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本当は休日の彼女をショッピングに誘うつもりだった

何度目かのコールで聞こえた名前の声を聴いたとき

用件よりも先に、その事情を知りたくなった

はい、とたった一言の返答に

途轍もない寂しさと悲しさ、切なさを感じたからだ

顔が見えない分、確証はないが今まで聴いたどんな声よりも弱く、消え入りそうで

なんて問えば良いのか思いつかず、結局ぶっきらぼうな言葉が口から出され自己嫌悪になる

一方的に切ったのだ、彼女のことだからきっとここへ来るだろう、と変な自信を持ちつつソファに腰掛ける

名前への想いを募らせていると

あっという間に過ぎる時間に驚き、苦笑する

惚れるとは恐ろしい、そう思ったとき

作戦室の扉が開かれる音がした

「し、失礼します」

「ああ、入れ」

やっぱり来てくれた、嬉しさを感じ

小さく笑みを零して指定席を示すと駆け寄る名前

「何かご用事でしたか?」

先ほど感じた憂いが嘘のような笑顔に安心を覚える

「いや、そうじゃねえよ」

「そうですか」

きょとん、と座ることを忘れ自分を見つめる彼女に胸が締め付けられる

「名前、ちょっといいか…」

「はい、って…っ!?」

今まで何度も感じた逞しい胸と腕の温もり

互いに生身でいるため本物の体温にやはり緊張を隠せない

いつもは、可愛い妹を愛でるような抱擁も

今日は少し違うように感じるのは気のせいか

壊れそうなものを大切に包むように

愛おしそうに、どこにも行かないように

柔らかな髪を撫でて抑える手のひらも、華奢な腰を支える腕も

普段の何倍も優しく、愛情深く、温かかった

寂しそうに名前を抱きしめる二宮を不思議に思い、胸の中で彼の名前を呟くと

きちんと届いたようで、返事の代わりに

彼の大きく温かな手のひらが名前の染まる頬にあてられる

「どうしたんですか…?」

彼の手に導かれ、繋がる視線を遮るものは何一つない

「やっぱりな」

「え?」

納得した、というように軽く頷くと

名前の髪を優しく梳き片方を耳にかけてやるように撫でる

ん、と声を漏らす名前にドキリとしたが

彼女のフェイスラインに残る寂しさの跡を見逃さなかった二宮は

乾いた雫さえ愛しく感じ、唇を寄せ舐めとるようにその跡を消し去る

ゼロ距離から感じた彼の吐息と体温に動揺を隠せない

「ひゃあ!?」

「嫌、だったか…?」

抑えられない羞恥から零れる高い声に、ハッとなる二宮に

違うんです、とオーバーなリアクションで首を振り彼を安心させる

そうか、と瞳を閉じ口角を上げる二宮に

なんて美しい人なんだと改めて感じ

目の前の端整な顔立ちにうっとりとしてしまう

相変わらず自分の腰にまわる彼の両腕は

この距離を離すまい、と力強くではあるが大切そうに抱いている

「名前」

何度目かの呼びかけに返事をし、再び見つめ合う

優しい鳶色の瞳は自分だけを映している

名前の澄んだ瞳に、ふう、と安堵の息を漏らすと片手が腰から離れた


「一人で泣くな、胸くらい貸してやる」


ぽん、と置かれた手にまたきょとんとしてしまうが

今朝の自分を思い出し、まるで全て知られているのではないかと思うくらいに欲しい言葉をくれた気がして

涙の代わりに、心の底からの笑顔が咲いた


「二宮さんって、すごい…!」


今度は自分から、強く腰に抱きつけば

戸惑ったように受け止め、次にはふっと鼻で笑う彼の声が頭上で聞こえる


「早く美味しいお菓子食べましょ〜!」

「なんのことだ」


その後、美味しいお菓子などないことが判明し

予想が外れたと残念がる彼女が可愛く思え


自身の部下達にお菓子の調達を指示する連絡をこっそり送っていたなんて、名前は知らない


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