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迎えた放課後、昼の言いつけ通り昇降口で彼を待つ

辻は授業の終わりの合図とともにいったん教室を出て行く

3年の教室の前にいたと聞いたことがあるが

きっと所属するボーダーの関係だろう、と大方の予想はつけていた

「ごめん、遅くなった」

「あ、ううん、今来たよ」

足元を見ながら考え事をしていると慌ただしく現れた辻

昼の約束通を守って立っていてくれた名前に頬が緩む

「じゃあ、行こうか」

彼女の小さな歩幅のペースに合わせ歩く

二回目の道は前回と違って特別な景色に見える

隣を歩く天使にチラリと視線をやりその感覚に確信をもつ

今日は名前との時間を作ったのにはちゃんと理由がある

なかなか言い出せずにいた辻の様子に気付き

無意識にずっと隣で小さく唸る彼に優しく声を掛ける

「どうかした?」

揺れた髪から香る甘い匂いに気を取られそうになったが

今がチャンスと思い、合わせたままの瞳を真っ直ぐに捉えた

「一度、ボーダー本部で精密検査を受けて欲しいんだ」

「精密…検査?」

どうして、と首を傾げる名前に言葉を続ける

「苗字さんの体質、ボーダーなら原因が分かると思うんだ」

ボーダーと自分にはなんの関係性もないと思う名前には疑問でしかない

しかし信頼する辻が言うのだから疑いの目を向けることもできない

「何をするの?」

健康診断みたいなもの?と提案に前向きな名前

「苗字さんのもつトリオン量を調べさせて欲しいんだ」

「トリオン…?」

聞いたことはあるが、イマイチそのものが分からない

「怖いもんじゃない、痛くもない」

微笑む彼の表情に安心を覚え、追求することをやめる

「でも私、うまく喋れないし…この体質がただの気のせいだったら恥ずかしいよ」

困ったように笑う名前に、大丈夫と言葉を返す

「もし検査を受けてくれるなら、その時はずっとそばにいるよ、俺の予想は間違ってもないと思うし、苗字さんの気のせいなんかじゃない」

優しい声と言葉に安堵し、微笑み返す

「うん…じゃあ」

辻の要望を聞き入れた名前はお願いしますと頭を軽く下げる

「手続きするにはどうしたらいいの?」

「それは俺がするから、苗字さんからは何もしなくていいよ」

誘ったのはこっちだし、全部任せて欲しい

名前の悩みの種を一つでも減らしてあげたい

その一心での提案だった、きっと彼女の存在はボーダーの未来を明るくする

なぜだかそう思えた辻はまだ決まっていない検査の日が楽しみになった

「辻くん?」

「なに?」

約束を取り付け、会話が終わり少し間があった

ふいに名前を呼ばれ並んで歩く名前に視線を落とす

恥ずかしそうに、困ったようにも見える表情は何度見ても可愛いと思ってしまう

「……だよ…」

「ん?なに?」

聞き取れないほど小さな声は風の音に呑まれた

自分より低い位置の肩口に合わせるように腰を屈ませると

横を向いた名前とかなり近い距離で視線が合った


「そばにいるって、約束だよ?」


タイミングが重なったことにお互い驚き体温が上がったが

それ以上に名前の表情と言葉に沸騰寸前に追い込まれた辻は

顔をふいっと逸らし、うんと頷くことしかできなかった

「知らない場所で知らない人に囲まれるのは嫌…だから」

しゅんと俯いた名前に自覚はないようで悔しさを感じる

「約束は守る」

相変わらず逆を向きながらもきちんと返事をする

よかった、と安心する名前の心からの笑顔はまだ見れそうもない



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