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「辻くんおはよう」

「おはよ」

名前の涙を見たあの日以来

ただのクラスメイトから意識が変わりつつある二人

はにかむ余裕さえできるほどに良好な関係を築きつつあることに友人達も驚きを隠せない

しかし名前と辻の良い意味での変化を茶化す者などおらず皆温かな目で見守っている

それは二人の性格と日頃の行動がそうさせるのか

むしろお互いの存在で以前よりも明るくなった二人をみて安心するくらいなのだ



「苗字さん、今日の放課後何か予定あったりする?」

「ううん、なにもないよ」

昼休みを迎えてすぐ、名前は親友の宇佐美の元へ行こうと席を立ったとき

すっと横に歩み寄る辻に予定の有無を問われ、キョトンとしつつも即答する

「もしよかったら今日も、その…家まで送らせてくれない、かな…」

急に恥ずかしくなったのか、頬を掻きながら目を逸らす辻にクスッと笑みがこぼれる

「でも辻くんの家、逆方向でしょ?」

申し出は嬉しかったが、彼の足労を案ずる

「大した距離じゃないし、どうってことない」

「え、でも…」

眉を下げる名前は申し訳なさそうに見え胸が痛くなる

「じゃあ…」

逸らした視線をぐっと名前へ向ける

いつもと変わらぬ綺麗な瞳がキラキラと眩しい

「家まで送る、だから昇降口で待ってて」

願望から強制に変わった言葉にドキリと胸が鳴る

思わぬ辻の強引さに頬が染まる名前は声が出ない

その様子に、ふっと微笑むと名前の前から立ち去った辻

近頃の自分はなんだか変だ、と動悸の激しい胸を抑えその場に立ち尽くした


「名前〜!来ないから迎えにきちゃった」


メガネを光らせエッヘンと笑う宇佐美が目の前に現れようやく覚醒する

「あれ?どうしたの名前」

にやにや、と事情を知っているかのような顔で名前をつつく

「な、なんでもないから!さ、お昼食べよう」

かあっと染まった頬に彼女の素直さを感じる

こういうところがたまらなく好きなんだよなあ

はいはい、と名前の腕を引いて屋上へ向かう

「お昼を食べながらゆっくり聞きますから!」

「もう、栞ちゃん〜!」

あせあせ、と慌てる名前の腕は珍しく熱をもっている

「ほんっと、可愛いなあ〜」

思ったことを口にすれば、俯き照れる名前

親友の自分が発する褒め言葉にも逐一照れてしまう名前が宇佐美は好きで仕方ない

名前がもつ、特殊な能力なんて関係ない

自分は名前という人間が大切なんだ

改めて親友への気持ちを再確認できた

屋上につけば心地よい風が髪を揺らす

んーっと伸びをして、また名前の手を引く

青い空を見ながらの食事は二人の心をより通わせてくれる気がしてとても清々しかった



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