長編 夜香花(やこうか) 完結

□第七話 紫
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深夜
誰も起きていない本丸を抜け出す
日課のお散歩に出た私は、庭に出て数歩で気付く


主「あれ、今日は新月か……」


いつもなら月明かりを頼りに歩くけど、今晩はそれが出来ない
とは言え慣れた場所
薄暗いながらも『感』で歩き、お気に入りの場所へ辿り着いた


主「わあ………今日も綺麗」


この名も知らぬ花は、月明かりもない真っ暗な暗闇の中でも、うっすらと光を放ち、辺りを照らしていた

その光景を、ぼんやり見る………




先日、愛染が怪我をして帰って来た
酷く動揺して恐ろしかったが、一つだけ分かった事がある
刀剣男士は、重傷を負っても尚、無理して進軍しない限り失う事は無いと

安心した……これで、出陣したまま帰って来なくなるなんて事が無いって分かった
自分が残されたまま家族を失うのは、もう懲り懲りだ

そんな事を考えながら、指先を唇に這わせる




そういえば……長谷部と……口付けをしてしまった




別に深い意味は、無かった
あの時は、流れでそうなってしまったのだ
でもそれは、あっちの世界でなら通用するが、こっちでは?
もしもあの行為が、長谷部を惑わせているなら申し訳ない………

そんな事を思っていると、背後から足音が聞こえた



主「誰です?」

「……………主、俺だよ」



暗闇の中、目を凝らし見ていると、紫色の長髪をなびかせた彼が見えて来た



主「………蜂須賀?」

蜂須賀「こんばんは、主」



誰にも会わない為に、深夜に徘徊してるのに、また見つかってしまった
何て事………出来れば一人になりたいのに


主「こんな夜更けに何をしているのですか?早く戻りなさい」

蜂須賀「それは主も同じじゃないのかい?屋敷を抜け出す貴女を見かけたんで護衛に来た、とでも言えば許して頂けるかな?」


少し厳しめに言ったにもかかわらず、へこたれなかった蜂須賀
こっち来るなオーラ出してるのに、ズンズン近付いて来る
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