長編 輪菊(りんぎく) 完結

□第十九話 主の内番
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景趣は秋
食べ頃を迎えた野菜や果物が、たわわになる庭の畑
そこに、いい感じに酔っ払った次郎が通りかかった


次郎「皆、お疲れ〜………っん?」


忙しそうな左文字兄弟
それを手伝っている平野と前田の間に、見慣れないスエットを見つけた


次郎「えっっ?!!まさか………」


びっくりして、慌てて駆け寄る次郎
目の前には、泥で汚れた主が居た


主「うわっ、酒臭っっ!!次郎、また昼間っから飲んでたのですか?」

次郎「そ、そ、そんな事どうでもいいよっっ!!それより一体何のつもりだい?」

主「へ?」


今の主の出で立ちは、お散歩の為に買ったというスエットに麦わら帽子
軍手で汗を拭いたのか、ほっぺには土が付いていた


主「ああ、体力作りって何も歩くだけじゃないな〜と思っていたら、畑仕事が忙しそうだったので……」


次郎は、主のほっぺたをゴシゴシと拭いた


次郎「あんたは、この本丸の長なんだよ……こんな事しないでドーンと構えてればいいのさ」

主「ふふふ、ありがとう次郎。実は私、毎日退屈だったのです。だから何かやりたかったのですよ」


最近では、長谷部もあまり部屋に居ない
歌仙と蜂須賀と一緒に、この本丸についての作戦会議なるものに出ている事が多くなった


主「たまには、手伝ってみるものですね。皆の大変さが分かり、今、足りていない物も分かりました」


辺りを見回し、爽やかな笑顔を見せる主
そこへ、主御世話係がやって来た


長谷部「主ーーーっっ!!このような所で、何をなさっているのですっっ!!!」

主「あ………うるさいのに見つかった」


長谷部に内緒で来たのか、皆の前で叱られている
しかし、主は知らん顔


長谷部「主たる者が土弄りなど……ブツブツ」

主「ああもう、分かった分かったから………はぁ………皆、騒がせてすみません。また手伝いに来ますね」
長谷部「いいや、もう来ない!!」


御世話係に、グイグイ引っ張って連れ去られる主を見送る一同
二人のその後ろ姿を見ながら、江雪はボソリと漏らした




江雪「………変わりましたねぇ」




宗三「ええ、本当に」

小夜「………また来るって言ってた」

平野「僕は嬉しいです!」
前田「僕も主君と一緒に作業がしたいです!」


主が去った後の皆の心には、何となく温かな気持ちが宿っていた
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