長編 鈴蘭(すずらん)New!
□第五話 誘惑
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巴は主の命令で、苦手である客人、鈴蘭の元へと向かっていた
巴「鈴蘭殿、体調が悪いと伺った。入るぞ………」
襖の前で一声掛けて静かに開く
すると中では、一人取り残された鈴蘭が倒れていた
巴「大丈夫かっ?!」
その状況に驚いた巴が、鈴蘭に素早く近付く
そして起こすように抱きかかえると、熱が無いか確認する為、顔に触れた
巴「熱は……無いようだな。乱はどこに行ったのだ」
御世話係に付けたはずの乱が居ない
客人を放って何をやっているのかと、少し腹を立てていた
……………その時
鈴蘭「………巴」
腕の中の鈴蘭が、目を覚ました
自分を呼ぶ声に、少し色を帯びているのは気のせいだろうか?
巴「体調が優れないと聞いて、様子を見に来た。どこか調子が悪いのか?」
と、心配そうに顔を覗き込む
次の瞬間、巴が予想もしていなかった事が起きる
如何にも女性らしい滑らかな動きで、スルリと巴の首筋に手を伸ばした鈴蘭
その、妙に艶めかしい白い腕に気を取られていると……見た事も無いような『女の顔』をした鈴蘭が近付いて来た
今まで、経験した事の無い事態が巴を襲う
気付くと巴の唇には、鈴蘭のしっとりとした唇が重なっている
巴「………っっ」
初めての口付けに驚いた巴は、頭が真っ白になり、全く動けなでいた
唯一感じられるのは、鈴蘭のとても温かく柔らかな唇だけだった
薬研「入るぞ」
乱「えっっ?!!」
そこへ現れた、薬研と乱
目の前で唇を重ねる鈴蘭と巴を見て、驚きのあまり動きが止まった
二人の登場に、我に返る巴
鈴蘭のを両腕を振り解き「……チッ」と小さく舌打ちすると、この部屋を出て行った
その様子を見た乱は、真っ赤な顔で慌てふためき、薬研は冷たい眼差しで鈴蘭を観察した
薬研「医療を担当している薬研藤四郎だ。あんたの所には居ないかもしれないから、一応自己紹介しとく」
そう言い放つと、鈴蘭の近くまでツカツカ近付いた
今までの事を見ていなかったのか?と思うほど冷静な様子の薬研
その彼が鈴蘭の腕を取って、脈をはかり始める
鈴蘭「あなた薬研?」
薬研「ああ、そうだ。見慣れない姿なのは、俺も『極』だからだ」
鈴蘭「へぇ……短刀も『極』だとカッコいいんだねぇ」
薬研「……………」
一切表情を変えない薬研
その後ろでは、乱が真っ赤な顔して座っていた