長編 鈴蘭(すずらん)New!

□第十話 帰城
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長い長い帰り道、やっとの思いで自分達の本丸に帰って来た巴と主

豆粒のようだった正門が、徐々に大きく見えてくると、馬上でグッタリしていた主も少し元気が出てくる
その出入口付近に、何人かの人影が見えた


主「ただいま帰りましたよ!お迎えありがとう………」

信濃「主っっ!それどころじゃないよ」

包丁「早くぅ……早く来てくれっっ」

主「?」


てっきり、いつものお出迎えだと思っていた主
しかし、待っていた短刀達はグイグイ引っ張り、急いで屋敷へと向かわせる
何だか様子が変だ……


薬研「やっと帰って来たか、大将」

主「ただ今帰りました。すみません、昨晩は事情がありまして、鈴蘭さんの所に泊まってしまいました」


中庭に来た時に出会った薬研
彼にしては珍しく、主が話し掛けているというのに気もそぞろ……
振り返っては何やらキョロキョロしたり、しきりに何かを気にかけている様子


薬研「そんな事はどうでもいい。早く屋敷へ入って長谷部の所へ行け」

主「長谷部…………何で?」


主は一瞬戸惑った
実はここ数日、長谷部とは話していない
彼と最後に話したのは、数日前、鈴蘭がこの本丸に来た日だった


主の部屋へ、こっそり侵入しようとした鈴蘭の連れ、亀甲
それに怒りを露わにする長谷部に対し、主は亀甲を庇ったのだ

勿論、そんな主にも怒りをぶつける長谷部
しかし主は、慣れない仕事の依頼と、そんな折に長谷部を近侍から外してしまった不安から、思わず言い争いをしてしまったのだ


主「………………」


いまだ意地を張っている主
素直になれない彼女は、どうしよう……と考えていた

と、その時




主「………は………長谷部」



長谷部「…………………」




騒ぎを聞きつけたのか、主の前へ姿を現した長谷部
主は、庭から見上げた彼の醸し出す空気に、かすかな違和感を覚えた


一瞬、自分を見て両目を見開いた長谷部だったが、すぐに目を細めて見おろす
その態度に、主の胸は、えぐられるように痛んだ
そう、それはまるで………



巴「何だ、その蔑むような目は?主に対して無礼だぞっっ!!」



主を軽蔑しているような表情だったからだ
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