長編 野花(のばな) 完結

□第一話 鍛刀
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その日の本丸は、騒がしかった


長谷部「主!!大変です!!」

主「何です長谷部、騒々しい」

長谷部「鍛刀部屋に女が……」

主「女?」


普段は大人しい、へしきり長谷部
その彼が、うっすらと額に汗して、審神者である女主の元へ走って来た

彼がそうなるのも無理は無い
何しろ此処は、見事な男所帯
刀剣とは、男ばかりだと誰もが思っていたからだ

長谷部の報告を受け、やはり驚いた主も、バタバタと足早に鍛刀部屋へと急いだ

そこには確かに女が座っていた


主「本当ですね……女性とは驚きました」


たった今、刀剣より顕現した者は、白い装束と緋袴に身を包んだ見紛う事なき女性だった


主「貴女のお顔………いえ、何でもありません。貴女、お名前は?」


真っ白な着物の端々は朱色で縁取られ、それと同じ色の紅を引いた唇が薄く開く


野花「野花……」

主「……野花?」


主の後ろで見ていた長谷部が、眉根を寄せる


長谷部「顕現すると皆、自ら名乗るものなのだがな……」


主至上主義の彼には、この態度が失礼に思えたのだろう
そんな彼の気持ちを察して優しく声をかける主


主「いいのですよ長谷部。それより野花、どうしたのですか?何か戸惑ってるようにも見えますが」

野花「……私……人の形……」

主「そうですね、今、貴女は人の形をしています」


彼女は、自分の手足を見つめながら小刻みに震えていた
その姿を見た主は、両膝を付き背中を撫でてやる
しかし野花は、その手を払い、弾かれたように主から離れた


長谷部「何をするっ!!」

主「大丈夫です長谷部、落ち着きなさい!!」


野花の態度に、怒りを露わにした長谷部
それを主は、宥めた

野花は、自分の体を抱き締めるように両手で自身を抱え込んで、小さな声でこう言った


野花「……ご……ごめんなさい」
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