長編 野花(のばな) 完結
□第二話 顔合わせ
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鶴丸「ここだ」
野花「……ありがとうございます」
長い廊下を歩き、とある襖の前で止まりニッコリ笑った彼
次の瞬間、スッと間合いを詰め、私の頬に指先を滑らせた
鶴丸「ここが俺の部屋だ」
野花「…………はい?私のじゃないんですか??あの、いったい、どういうつもりで」
鶴丸「どういうって、野暮な事聞くんだな」
そう言うと、私の目元に優しく親指を這わせる
鶴丸「涙、止まったのか……せっかく慰めてやろうと思ったのに……今宵は、俺の部屋で……」
野花「すみませんが、私の部屋はどこですか?」
被せ気味に言い、わざと雰囲気を壊す
鶴丸「………はいはい」
鶴丸様は、大きくため息を吐き、諦めたように私から離れると、再び廊下を歩き始めた
そして、襖が開け放たれた部屋を「ここ」と指差す
野花「わざわざ案内して頂き、ありがとうございました……では、お休みなさい」
鶴丸「おっと!!」
お礼を言い襖を閉めようとしたその時、その行動を阻止された
眉間にシワを寄せる私
鶴丸「そんな顔すんなよ。俺は君を気に入ったんだ。ま、仲良くしようぜ!」
その白く美しい顔をニッコリと微笑ませる鶴丸様
そんな彼を無視するかのように、目の前でピシャリと襖を閉じた
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野花「………ふぅ」
やっと独りになれた
顕現してから色々考えたかったのに、その時間は全くなかった
突然、人の形を与えられ、引っ張り出されたこの世界
いったい、何がどうなってるのか、サッパリ分からない
さっき見た刀剣の方々も、名だたる名匠が手掛けた刀ばかり
何故、無名の自分が呼び出されたのか、皆目見当もつかない
あの様子だと、鍛刀した主本人にも分かっていないようだ
しかし、人の体とは不便なもの……
体が疲れてしまったのか、少し眠くなって来た事に気付く
チラリと、部屋の隅に用意された布団が目に入る
仕方なく、それを敷いて横になると、途端に睡魔に襲われ、意識を失うように眠りについた
明日から、この本丸での生活が始まる
この時はまだ、私にあんな事が起きるなんて、知りもしなかった