長編 野花(のばな) 完結

□第二話 顔合わせ
4ページ/4ページ

鶴丸「ここだ」

野花「……ありがとうございます」
 

長い廊下を歩き、とある襖の前で止まりニッコリ笑った彼
次の瞬間、スッと間合いを詰め、私の頬に指先を滑らせた



鶴丸「ここが俺の部屋だ」



野花「…………はい?私のじゃないんですか??あの、いったい、どういうつもりで」

鶴丸「どういうって、野暮な事聞くんだな」


そう言うと、私の目元に優しく親指を這わせる


鶴丸「涙、止まったのか……せっかく慰めてやろうと思ったのに……今宵は、俺の部屋で……」
野花「すみませんが、私の部屋はどこですか?」


被せ気味に言い、わざと雰囲気を壊す


鶴丸「………はいはい」


鶴丸様は、大きくため息を吐き、諦めたように私から離れると、再び廊下を歩き始めた
そして、襖が開け放たれた部屋を「ここ」と指差す


野花「わざわざ案内して頂き、ありがとうございました……では、お休みなさい」

鶴丸「おっと!!」


お礼を言い襖を閉めようとしたその時、その行動を阻止された
眉間にシワを寄せる私


鶴丸「そんな顔すんなよ。俺は君を気に入ったんだ。ま、仲良くしようぜ!」


その白く美しい顔をニッコリと微笑ませる鶴丸様
そんな彼を無視するかのように、目の前でピシャリと襖を閉じた



**************


野花「………ふぅ」


やっと独りになれた
顕現してから色々考えたかったのに、その時間は全くなかった


突然、人の形を与えられ、引っ張り出されたこの世界
いったい、何がどうなってるのか、サッパリ分からない

さっき見た刀剣の方々も、名だたる名匠が手掛けた刀ばかり
何故、無名の自分が呼び出されたのか、皆目見当もつかない
あの様子だと、鍛刀した主本人にも分かっていないようだ



しかし、人の体とは不便なもの……
体が疲れてしまったのか、少し眠くなって来た事に気付く

チラリと、部屋の隅に用意された布団が目に入る
仕方なく、それを敷いて横になると、途端に睡魔に襲われ、意識を失うように眠りについた



明日から、この本丸での生活が始まる
この時はまだ、私にあんな事が起きるなんて、知りもしなかった


次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ