長編 野花(のばな) 完結

□第四話 落ちる
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「ケンカは駄目だよ」


その声に振り向くと、近付いて来る人物が目に入った
次の瞬間、小さい子達がその人に一斉に走り寄る


全員「いち兄〜!!」


飛び付いた勢いで尻餅をついた男性
「痛たた……」と言いながらも、それでも嬉しそうに、兄弟達の頭を一人一人撫でる




野花「………………」




何て素敵な表情で笑う人なんだろうと思った

彼の醸し出す空気が、優しくてとても温かい
何だかその輪に私も入りたくて、粟田口の子達が羨ましくて仕方なかった



加州「野花……行くよ」

野花「………っあ」



ボ〜ッと見ていた私の手を取って、歩き出す加洲清光
その場を去ろうとした私に、一期一振が声を掛けて来た


一期「貴女が野花さんですか?主に聞きましたよ」


その春風のような声で、私の名前を呼んだ彼
その事が妙にくすぐったくて嬉しくて、ちょっと振り返ってみようとした時に、加州清光に強く手を引っ張られた


加州「ごめんね一期。今から野花と手合わせするんだ」

一期「そうなのかい?それは引き止めてすまなかったね」

前田「違いますよっ!!野花さんは、僕達と馬の世話を……」


そう言いかけた弟の頭を「もう止めなさい」と言わんばかりに、優しく撫でる兄
そして、何も言わずにその場を去ろうとする野花に一声掛けた


一期「野花さん!!弟達の面倒見て下さって、ありがとうございました」

野花「あ………」
加州「ほら、早く行くよ」


更に強く手を引く加州清光
何故、彼がこんなにも強引な事するのかが分からない
不思議に思いながらも、彼と行動を共にする



でもその時実は、少し助かったと思っていた

だって私の顔は、恐らく赤い
その熱くなった頬を誰にも見られたくなくて、加州清光の陰に隠れている
その事は、絶対に気付かれていないと思っていた

しかしそれを乱ちゃんが、ジッと見ていた
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