長編 野花(のばな) 完結

□第八話 過去
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次郎「ちょっと野花、付き合ってちょうだい」

野花「はい…」


何の用だろう?
全く心当たりが無いまま、次郎様に付いて行く

そこは、太郎様と次郎様のお部屋
私を座らせた後、ご自分は脇息にもたれ、何も言わず私をジッと見てる
何とも気まずい空間……


野花「あ、あの……何か?」

次郎「いやね、あんたが何を隠してるのかな……って考えてただけさ」

野花「その事でしたか……」


以前から、私のちょっとした異変に気付いてた次郎様
それでも、そっとしておいてくれる
そのお気遣いには、いつも感謝していた


野花「私もそろそろ限界を感じていました。いい機会なので、宜しければ聞いて頂けますか?」


崩した足を正座させ、真っ直ぐ私を見つめる次郎様
その真摯な態度で、これは、きちんと真実を告げなければ失礼だと思った






野花「私の以前の主は………忍びの者でした」


いわゆる『くのいち』
忍びの里で育ち、誰かに仕え水面下で任務をこなす
その主の背中に寄り添っていた刀が私、そう伝えた


次郎「………どうりでね」

野花「?」

次郎「あんたの数値が、そう言ってるのよ」


そうなんですか?
私に、それを分析する能力は、残念ながら備わっていない
次郎様が言うには、飛び抜けた数値の高い部分が、ただの武士には不自然だったらしい


野花「白拍子は、その時の物です。主の仮の姿がそれでした」


歌と舞いを披露する、それが普段の主
しかし、一旦指令が出ればその顔を一変させ、くのいちへと戻る
それは任務を遂行する為には、何をもいとわない言う事を示す


野花「お屋敷に入り込み盗みを働いたり、時には遊女になりすまし身体を売る事もあります」

次郎「……………」

野花「そんな主に仕えた私の役目は……ただひたすら人を切る事。殺す為だけに使われて来たんです。何人切ったか覚えてない程に……」


本当は、これだけは隠したかった
人殺しの道具でしか無かった私は、ここに居る立派な刀剣の方々と肩を並べる事なんて、本来有り得ない事だと思っていた
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