長編 鈴蘭(すずらん)New!

□第十話 帰城
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主「あ……あの……」


初めて見る長谷部のそんな態度に、意地を張ってる事も忘れ、思わず声を掛けようとした主
しかしそれは、あの聞き慣れた甘ったるい声にかき消される


鈴蘭「長〜谷〜部〜、居たぁ!もう、置いてかないでよ〜」

主「っっ………」


主は言葉を失った
いつの間にか鈴蘭は、自分達よりも先にこの本丸へと来ていたのだ
そして何故だか主の着物を着て、見せ付けるように長谷部にベタベタと甘えている


巴「鈴蘭殿、何ゆえにこの本丸に来ているのだ?しかも、その格好はいったい………何の真似だ」

鈴蘭「きゃはは、ナニユエって何〜?何か巴って、時々オジイチャンみたいだよぉ」

巴「笑うな、答えろっっ!!!!」

鈴蘭「いゃ〜ん、こ〜わ〜い〜」


そう言って長谷部の背中に隠れた鈴蘭
怒りのぶつけ先を失った巴の視線は、長谷部へと移った


巴「説明しろ、長谷部」

長谷部「………………」


二人は暫く睨み合った
一触即発の巴と長谷部
その緊張感に、一部始終を見ていた皆の背中に、冷や汗が流れる



長谷部「………さ、鈴蘭殿、参りましょうか」



しかし、先に視線を外したのは、長谷部の方だった
彼は、自分の意思を遮断するように両目を一度閉じると表情を一変させた

ニコリと微笑みをたずさえ、鈴蘭の肩に優しく手を掛ける
そして皆が注目するこの場所を、何事も無かったかのように後にしたのだ

その鈴蘭に対する仕草は、いつも主に向けていたものと変わりなく、まるで慈しんでいるようにも見えた
それが主の心を、更に深くえぐる




主「…………………」





次郎「あ、あのさ……」


呆然と立ち尽くす主に話し掛けてきた次郎
何だか申し訳なさそうに、その大きな体を小さく縮めている


次郎「あの子に着物を着せたのは、私なんだ。勝手な事してすまないねぇ」


今朝方、空が白み始めたくらいに本丸に来た鈴蘭
一番最初に見つけた次郎は驚いた
彼女の格好は、キャミソールとショートパンツと、あまりにも露出が多い姿だったのだ

慌てて次郎は、主の部屋へと鈴蘭を通した

男所帯の本丸で、こんな格好でフラフラされてはたまらない
全員が起きる前に何とかしなくてはと考えた次郎は、後から主に言えばいいかと、急遽、着物を着せたのだった
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