短編 花弁

□手袋の穴(薬研藤四郎)
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そっと彼女の唇に自分のを押し当てた



少しづつ薬を流し込むと、コクリと飲んだ様子が分かる




薬研「いいぞ……そのまま飲んでくれ」




何度かそれを続けると、大将の顔色がみるみる良くなってくる
これで傷の回復も早まるだろうと、ひと安心した




ぐっすりと眠った大将を確認し、薬の器を片付ける為に部屋を出る





薬研「……………」





今、起きた事が頭を廻ったが、深くは考えないようにする
大将が元気になれば、それでいい
そう自分に言った




俺は、来る日も来る日も、大将の為に薬を煎じ続けた
その甲斐もあってか、当初考えてた日数より早く元気になった大将





そして、目の包帯を外してみようと提案した日
俺は少し緊張していた


主「眩しい……」


ボソッと呟いた言葉を聞いて安堵する
幸いにして大将は、失明する事はなかった


薬研「見えてるようだな。これ何本か分かるか?」



試しに、自分の人差し指を立てて尋ねてみる
しかし彼女は、俺の心配なんかどこ吹く風
いつもの主節を炸裂させた


主「薬研、手袋破れてますよ。宗三に縫ってもらいなさい」

薬研「……………」



完全に治ったな



そう思った

大将は、自分では隠しているつもりだが、結構な『おとぼけキャラ』だ
まあ、そこが可愛い所でもあるんだが、時と場合による
今のは完全にハズしてるパターンで、全く笑えない


手袋の穴


それは毎日、大将の為を思って薬研で薬を煎じた時にすり減ったものだ
それを知らない彼女は、ケロッと指摘して来やがった
仕方がない事とは言え、何だか理不尽だという気持ちになる

俺は、立ち去り際ブツブツと不満を漏らしながら部屋を出た




更に数日後、完治した大将は、本丸内を歩き回っていた
廊下ですれ違う度に、俺に外で遊べとすすめる彼女
それを勉強があるからと断り続ける
俺は、大将が思ってる程子供じゃない



俺はあんたと………



思わずそう言いたくなる
しかしそれは死んでも言えない、俺だけの秘密だ


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