夢話

□愛しい人に鈴
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遊女や旦那さんの笑い声
三味線の音色が揚屋を包む


今日は俊太郎さまのお座敷に呼ばれ、私はいつもの様に横に着きお酌をしていた


でも今日は2人きりではなく
俊太郎さまは「枡屋喜右衛門さま」のお客様を連れてきてのお越しだった


客「いやぁ、こないべっぴんさんと酒が呑めるなんて枡屋はんに感謝やわぁ」


古高「へー、ここはわての馴染みの店さかいいつもわてが受けてるこの店のもてなしをお宅にも味わってもらお思いましてな」


いつも密談に使われるこのお座敷とは雰囲気がガラリと違く最初少し戸惑ったが、俊太郎さまに恥をかかせるわけにはいかないと普段通り接客に徹した


お客さんは舞や音楽を堪能したり美味しい酒や食事に舌鼓をうち、すっかりご機嫌みたいで


これで「枡屋さん」の商談も上手くいくかなと少しほっとした


俊太郎さまを見上げると俊太郎さまは私の耳に顔を寄せ、小さく「おおきに」と囁いた


お客さんはお酒を片手に他の遊女さんの肩を抱きながら冗舌になる


客「そう言えば最近わて猫を飼い始めましてなぁ」


古高「ほう、猫ですか?そらかいらしいんでっしゃろなぁ」


客「そうなんですわ、それに商売繁盛招き猫言いますやろ?文字通り猫可愛がりしていたら今じゃわてより上座に座って気持ち良さそうに寝てますわ!」


ははは、と自嘲めかして笑うお客さんに私もふふ、と目を細めた


俊太郎さまは口端をニィっと持ち上げ話を続けた


古高「偶然にも、実はわても最近子猫を拾いまして」


客「ほー枡屋はんもでっか」


千姫呂(俊太郎さまも?)


私は俊太郎さまにお酌をしつつ、その話は初耳と目を丸くして首を傾げた


古高「そうなんどす。最初迷ってわての処に来た時はえらい震えて警戒されていたんどすけど」

と、徳利を傾けながらチラリ、と妖艶さを含んだ瞳を此方に向け私の髪を指ですく

古高「今じゃわての膝の上で喉を鳴らしてくれるんですわ」

そして彼はニヤリと悪戯っぽく笑った

千姫呂「!!?」

その意味を悟ると一気に耳まで赤くなる

客「そら愛らしなぁ、枡屋はんにかいがられる猫はさぞかし幸せなんやろな〜」


古高「へー、かいらしゅうてかいらしゅうてえらい大事にしてるんやけども…」


千姫呂「……… 」


古高「目を見張る程綺麗な猫やさかい、いつか誰かに攫われるんじゃないかて気が気でいられへんのですわ」


ドッドッと心臓の音が鼓膜に響き
行き先を無くした指先で空になった瓶を弄る


客「そら心配ですなぁ…あ!せやったら鈴の首輪でも付けるとええんちゃいます?」


千姫呂「す、鈴!?」


客「へ?」


千姫呂「あっ…あ、いえ、いい考えですね!」


お客さんが純粋に提案してるのは分かってはいるものの、静かに喉の奥で笑う俊太郎さまのせいで動揺を隠せなくなる


客「居なくなったら困りますさかい、うちの猫にも付けてるんですわ」


もう余計な事を言うまいと俯きながら眉を八文字にして俊太郎さまを睨むけど


俊太郎さまはニコニコと「そうですね、じゃあ今度わても姫に買うてみまひょ」と私の髪をすき続け、引き続き猫の話で盛り上がる二人を尻目に、私の心臓の音は上がる一方だった






千姫呂(もうやめて〜〜)
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