夢話
□嫉妬
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揚屋の一つのお座敷で
腕を組み頬を膨らせてソッポを向く
その後ろでは何とか千姫呂の腹の虫を収めようと坂本がソワソワしていた
坂本「千姫呂〜〜、許してくれんじゃろか〜〜」
千姫呂「私、別に怒っていません」
坂本「ほんなら、こっち向いて欲しいんじゃがの〜」
千姫呂「それは嫌です!」
プイ、と反対を向けば坂本がそちら側に移動してそしてまたプイ、と反対へ顔を反らせの繰り返し
坂本は困ったと頭を掻き肩を落とした
事の発端は前の夜
忙しい中千姫呂の顔をと会いにきて直ぐに揚屋を出た坂本
揚屋の外に行くと坂本の仲間と翔太が影で待っていた
千姫呂「わたし、大門まで送ります」
坂本「いや、外は寒いじゃき千姫呂が風邪を引いたらわしゃ心配で仕事どころじゃなくなる。ここでえいよ」
坂本は千姫呂にぽん、と大きな手を頭に乗せ、一つ笑顔を向けて踵を返す
後ろ姿が見えなくなるまで見送り千姫呂も暖簾を潜るけどやっぱりどうしても寂しくて
番頭にすぐに戻ります!と告げて急いで追いかけると背が高い坂本だ、すぐに見つける事ができたが
千姫呂「………!」
遊女「才谷はん、暫く来てくれへんからわて寂しいわぁ」
遊女「またうちで遊んでくださいな」
呼び込み遊女達が坂本の首や腕に手を絡ませ妖艶な笑みを浮かべていた
千姫呂にいち早く気づいた翔太が坂本に耳打ちすると勢いよく体の向きを変える坂本
坂本「千姫呂…」
目に映ったのはショックで硬直した千姫呂の姿
遊女はその状況を察してか千姫呂に向かいフン、と鼻で笑い、坂本の顎に手を添え自分に向かせた
坂本「おお、何するが…」
翔太「しっ、坂本さん新撰組がいます」
坂本は直ぐにでも千姫呂の元に駆け寄りたかったが、弱り目に祟り目、大勢の新撰組が島原へ遊び歩いていた
それでもと千姫呂の元に行く為纏わりつく人間を振り切るが、沖田と土方が千姫呂に気付き先に歩み寄ってしまう
沖田「千姫呂さん、こんばんは」
土方「よう、遊びにきたぜ」
千姫呂「あ…皆さん、こんばんわ」
千姫呂は動揺を隠そうと沖田と土方に笑顔で取り繕うが、やはり気になるのは愛しい人で
チラリ、と坂本を見つけると坂本の仲間が先程の遊女の揚屋に引っ張り込んでいるところだった
数日後
坂本は揚屋の座敷に通されたが、どうも落ち着かず酒を仰いで千姫呂を待つ
暫くすると、聞こえるパタパタと走る音と「これ!はしたない!」と言うやり手婆の声
来たか!と中腰になるも少し恥ずかしくなり座り直すと襖の前で息と身なりを整える千姫呂の影が映った
千姫呂「藍屋の千姫呂です。失礼します」
スッと襖が開くと行儀よくお辞儀をした愛しい人
坂本「おお!千姫呂!」
と言いかけたその時、坂本の笑顔がそのまま凍りついた
ユックリと上がった千姫呂の顔が既に膨れていたから…
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