夢話
□雨
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〜古高side〜
ポツポツと午後から降り続いている雨が斜線を引いて道に波紋を描き、屋根を伝う雫が規律正しい音を立てる。
私は窓縁に腰を下ろし外を眺め、昨日の晩の事を思い出す。
昨夜の曇天の下、刀の打ち合いの音、私を探す敵の怒声、同志のくぐもった声……
仲間を失った悔しさと無念さを思うと手に自然と力が入り、ぎり、と窓縁の柵を握った。
犠牲がでようとも、自分の手足が動かなくなろうともやらねばならぬ事がある。師のためにも亡くなった同志の為にも。
私はゆっくりと重い腰を上げる。
今ここに居ると自分が何者かわからなくなる気がして、身支度を済ませ、羽織に手を伸ばし商いの商談と称し家を出た。
街行く人々は濡れる事を避ける様に早足で家族が待つ家路を急ぎ、自分は死んだ目をして逆方向へゆっくり歩く。
もう皐月の月と言うのに、身体を雨粒が冷やす。
私は死ぬのは怖くない。
役目の為ならその覚悟は遠に出来ている。
しかし…すれ違う「普通」に暮らす人々を横目で追ってしまう。
もしも自分なら…なんて重ねているのだろうか。
そう思うと不意にあの人に会いたくなった。
古高「千姫呂…」
自然と足は千姫呂がいる島原へ動いた。