夢話

□誓
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部屋に静粛な空気が流れ、遠くに聴こえるのは鳥の声だけ。


白髪混じりの町医者が丸眼鏡を光らせる。


町医者「ふ〜〜む...」


新撰組に拷問され、瀕死の状態で担ぎ込まれて幾月が経った今日この頃、古高の傷の経過を見るべく町医者がやって来た。


神妙な面持ちで、古高の腕や足を畳んだり伸ばしたり忙しく立ち振る舞う。


古高「………」


千姫呂「ごくり…」


千姫呂は部屋の隅で診察の付き添いとして部屋の隅で前のめりで正座していた。


町医者「これは!」


千姫呂「…!?」


町医者「な、なんと…」


千姫呂「せ、先生…!なにか…?」


町医者「大分治った」





まさか、経過が良くないのかと息を忘れて待っていた千姫呂は町医者の冗談にがくりと力が抜けると古高がクスクスと声を漏らす。


古高「お医者さま、ワテの妻で遊ばんといておくれやす」


町医者「冗談じゃ冗談。あんさんの奥方が余りにも念を飛ばしてきはるからちょいと揶揄わせて頂きましたわ」


千姫呂「か、からかっ…」


余りの恥ずかしさで涙目で俯くと医者が包帯を巻きながら話しだした。


町医者「ほんま、こないえらい傷よう治ったわ…」


古高「へー、お医者さまの経験ある腕が良かったさかいに、ほんま命拾いさせて貰いましたわ」


町医者「ふん、こない怪我、ワテは見た事あらへんかったわ。多分、戦国の合戦でもこないならへんやろう」


古高「……」


町医者「ワテはこれでも医者の端くれや。見てわかる。このお人の顔と怪我を初めて見た時、このお人はどない重い物を背負ってるんやと、そう思いました」


千姫呂「………」


町医者「ですが……今この顔つきを見ると…そない重い業も少しずつ軽なってきてはるようや」



包帯を巻き終え古高の腕をそっと下ろすと町医者は千姫呂に振り向き愛嬌ある笑顔で笑った。


町医者「こない早う治ったんも、あの張り詰めた顔つきを変えたんも、この方の看病をしてはるお人のお陰なんでしょう」


町医者「ええ奥方をもらはりましたな」


古高「……へえ、おおきに」


古高は嬉しそうに軽く会釈した後千姫呂を見て優しく微笑む


千姫呂は目の下を赤く染めてそれに応えた







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