夢話

□月に想うは…
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秋の夜に月が浮かび上がる。


今宵は満月だ。


秋斉との話を済ませ、部屋を出て外廊下を歩くと、


俺は冷たくなった夜風を避けるべく襟巻きにすっぽりと顔を隠した。


前ならば、其の儘直ぐに家路に着くだろう。


でも今は、少しでも顔が見たくて、どこか千姫呂の気配を探してしまう。


今ならまだ起きているだろうか、寝ているならばどんな夢を見ているのだろうか。


なんて、そんな事を考えるだけで心が満たされていく俺をお前は笑うだろうか。


くすり、と自嘲していると、中庭の縁側で月明かりに照らされた今1番会いたかった愛しい人が一人で座っているのが見えた。


弾む胸を抑え、驚かしてやろうと近づくが自分の目に映った物に驚き足が止まる。


満月を見上げ月明かりに照らされていた千姫呂の頬は濡れていた。


お前が泣くのは見たくはない。
見たくはないが、余りにも綺麗で思わず息を飲んでしまった。


ぎ、と床が軋むと千姫呂はびくり、と肩を跳ねさせ慌てて涙を拭う。


俺は何も見なかった振りをしてまた足を進めた。


慶喜「やあ、千姫呂」


千姫呂「慶喜さん!」


花が咲いた様に笑う彼女の横に腰を下ろす。


千姫呂「来てらっしゃったんですね」


慶喜「あぁ、秋斉に用事があってね。千姫呂はこんな寒空で何をしてるの?」


千姫呂は少し考えた後、赤くなった目尻を細める。


千姫呂「家族を…思い出してました」


恥ずかしそうに笑う千姫呂。


寂しい思いを押し殺して正直に話す彼女を見ていると胸が痛くなる。


慶喜「会いたいかい?」


優しくそう聞くと千姫呂はまた月を見上げ、小さな声で「はい」と呟いた。


慶喜「そうか…」




まるでお伽話のかぐや姫のようだ。


帰りたいと泣いていた彼女に俺は何も言ってやれない。


やっと気付けた大切な存在を失うのが怖いのか。


彼女が帰れる手段を見つけた時、俺はどうするのだろう。


お話の帝の様に彼女を返すまいと天に弓を放つのだろうか。


ちらり、と彼女を見ると俺の視線に気付いて千姫呂は恥ずかしそうに小さく笑った


千姫呂「でも、ここから見る月も好きです」


慶喜「…ああ、俺も好きだよ。お前と見る月は格別綺麗だ。もちろん、お前もね」


冗談めかしてそう言うと千姫呂は頬を染め「またからかって」と可愛く怒った。



きっと、お前が居ない俺の世界はつまらなくなるのだろう。
月を無くした秋の夜の様に。


それでも、お前が泣き止むのなら、心から笑ってくれるなら、きっと俺は何でもしてしまうんだと思う。




ただ


後少しだけ、今だけは ーーー


慶喜「本当に綺麗だ」


千姫呂「はい…」



お前との愛しいこの時間を俺に分けてほしい









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