夢話

□恋人達のクリスマス
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日を背負い歩くと、寄り添う二人の長い影が地面に写しだされる。

クリスマスの日、デートを楽しんだ私と翔太くんは連れ立って夕日の中を歩いて置屋に帰っていた。

彼が吐く白い息にすらときめいてしまう自分はもう重症なんだと思う。

二人で話す会話は自然と私達がいた未来の思い出になり、その頃のクリスマスに何してた?なんて笑いあった。

「実はあの頃、クリスマスは苦手だったんだ」

ポツリと零した言葉に私は首をかしげ理由を聞くと、彼は笑うなよ?と悪戯っぽく笑い続きを話し始めた。

「だってさ、街中を見渡せばカップルだらけでさ…この日に好きな女の子と一緒に過ごすのはどんなんだろうなって嫌ってぐらい考えさせられるだろ?」

「あ、それは分かる」

「毎年バスケ部の奴等と何で俺達には彼女がいないんだー!って泣き言ばっかり言ってた」

翔太くんがわざと拗ねた顔をして冗談を言うから私は声を上げて笑ってしまった。

一頻り笑い彼を見やると、


目を細め優しい微笑みを私に向ける彼と目が合った。
未来の世界では知り得なかった愛しい表情。


嬉しさに勝手に綻んでしまう顔を彼に向けていると、何故かすいっと顔を逸らされてしまった。

「翔太くんどうしたの?」

「なんでもない…」

不思議に思い、様子を伺うと彼の耳は真っ赤で、察して意識してしまえば私も簡単に顔が熱くなってしまう。

そのまま二人の間に気恥ずかしい沈黙の時が流れる。
あの角を曲がってまっすぐ行けば大門が見えるはず。

寂しいな…なんて事を思えば心がぎゅっと掴まれたように痛い。

そんな私の気持ちを察してくれたのか、翔太くんは不意に私の手を取り指を絡ませ意を決したかのように息を吐いた。

「あの時すれ違ったカップル達の気持ち…」

「うん」

「俺、今すごい分かるんだ」

じわりと胸が熱くなる。同じ事をついさっき考えていた事が嬉しい。

「私も…」

「千姫呂も?」

「う、うん…」

歩みを止めた彼に視線を送ろうとすると、繋いだ手をぐいっと彼が引き寄せそのまま私を抱きしめた。

「翔太くん?」

驚きに目をぱちくりさせていると、弱った声で翔太くんが呟く。

「俺…今顔ヤバイから見ないで」

「え?」

「今日、ずっと楽しみにしてたんだ。千姫呂とクリスマスにデートするの夢だったから…。嬉しすぎて顔が破綻してる」

翔太くんは、はぁ、と溜息を一つ吐くと私に回した腕に少しだけ力を込める。
そんな告白に冬なのに逆上せてしまうかと思った。

「夢…」

「おかしいよな、笑ってやって」

はは、と自嘲する翔太くんに私は何回も首を振った。

「そんな事ないよ。私だって翔太くんとクリスマス一緒に過ごせたらって…」

「……………」

私の言葉を聞いてゆっくりと身体を離す翔太くん。
目を合わせられないままでいたけれど、真っ赤な顔をした彼が黙って手を握り直し向かう先とは違う方向に足を向けた。

「少し遠回りしてもいいかな」

「遠回り?」

「暗くなる前にはちゃんと送るよ。でも、あと少し…千姫呂と一緒にいたいと思ったんだ」


綺麗なイルミネーションもケーキもある訳じゃない。

この甘い時間に中々心臓は慣れてくれそうもないけれど、それでも二人で分かち合うこの時間が心を暖かく満たしてくれる。


「なぁ、千姫呂。来年もさ、一緒に……」



私達は帰るまで、街行く人達に冷やかされながらも手を離すことはしなかった。

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