夢話
□蛍火
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千姫呂は秋斉に1日だけお暇を頼み込み、半分呆れられながら許可を貰った
人で賑わう町を離れ山道に入る
山が新鮮に感じる千姫呂は高杉の後を一生懸命歩きつつ、周りをキョロキョロと見渡す
木漏れ日が小道にキラキラと光りを指し、
歩く小道沿いの崖下に深く澄んだ川が見えた
千姫呂「綺麗…」
高杉も「そうだな」と遠くを見つめて満足気に両の口角を上げた
初夏の日差しに包まれて、ささやかな幸せを感じる二人
どこに連れて行かれるのかも分からない、飛切り豪華なものもある訳ではない
それでも久しぶりの愛しい人との時間が嬉しくて、千姫呂はずっとこの幸せが続けばいいのに、と胸で呟いた
しかし、そんな二人の背後から近づく不穏な足音が、その願いを簡単に打ち消し現実に引き戻す
緩んでいた高杉の瞳が一気に鋭くなり、歩いてきた道へゆっくりと顔を向かせた
千姫呂「高杉さん…?」
高杉「千姫呂すまん、逢瀬は中止になりそうだ」
高杉がそう言った瞬間「取り囲め!!」と大きな声が森に響き渡り、近くに止まっていた鳥が鳴き声を上げ一斉に飛び立った
千姫呂「!!!」
町から高杉をずっと付けてきたのであろう佐幕側の人間が刀を持ち殺気を放つ
佐幕藩士「逃すな!」
高杉は千姫呂の腕を掴み逃げようと前を向くと、先回りして待ち伏せしていただろう複数の敵が木の陰から飛び出し
あっという間に二人は取り囲まれた
高杉「ちっ、暇もゆっくりさせてくれないのか」
高杉は千姫呂を瞬時に背に隠し、持っていた刀を抜き取るが…
守らねばならぬ女がいて、敵は複数、逃げる場所も塞がれ、どうやってもバツが悪いこの現状
千姫呂「た、高杉さん…」
額を滑り降りる冷や汗がやけに冷たく感じ、ニヤリと笑みが出でしまう
佐幕藩士「京を揺るがす張本人が昼間から女とフラフラ遊び歩いているとはいい度胸だな、高杉」
高杉「はっ、金と権力に怖気付いて帝と幕府の間をフラフラしている輩が何を言ってやがる」
佐幕藩士「なにぃ!!」
震える千姫呂を庇いながらジリジリと合間を取ろうとするが、詰められ崖に寄せられる
佐幕藩士「この状況で何を言ってももう遅いわ!かかれ!!」
高杉「ちぃ!」
一斉に刀が一点に振り下ろされ、高杉は瞬きせず眉を最大に潜めたその瞬間
千姫呂が高杉の背から胸に腕を回し
高杉「!?」
川がある崖にそのまま二人で飛び込んだ
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