貴方と、彼と、私と、

□1.
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「青山さんですか。」

ニコッと笑い私の名前を確認する。

「僕は…」

首にかけてあった名札を出し見せてくる。

「村上信五です」

私も同じように、「村上さん」と
名前の確認をした。

「関西の方から、半年だけ研修で
今こっちに来てるんです。」

そう言いながら名刺を胸ポケットにしまう。
半年すると会えなくなるんだとこの時気付く。

私はこの一度の機会を逃したくなかったのか
何時もよりよく話した。
年齢、誕生日、趣味、特技…
よくある定番の質問を彼にぶつけた。

村上信五さん。1月26日生まれの34歳。
私より9つ年上の男性。
趣味はフットサル(サッカー)とピアノ。
共に特技も同じなようだ。
家では猫を飼っているそうだ。
この時、
「半年こっちにいる間、
知り合いの女性に預けてる」と聞き
これまた悲しくなる話を聞いた。

彼は時計をチラッと見る。
話し過ぎて嫌がられたかと少し反省する。

今日は嫌なことが多いのかと落ち込むと、
彼は胸ポケットからペンを出し
サラサラと何かを書き始めた。

「これ、俺の番号!」

名刺の裏に書いて渡してくれた。
この時、私の可愛くない所が
まず出てきてしまい、
この人は仕事では“僕”を使い、
日常的には“俺”を使う人なんだと考えた。

「連絡下さい。またお話したいです。」

さっきの落ち込みは全て飛んでいく、
そんな気分になった。

私は生まれて初めて、
大人な男性からの誘いを受けた。
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