Innocent Dream

□Chapter 1
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春とは出会いと別れの季節と呼ばれるが、個人的にはどの季節も出会いと別れの季節だと思っている。
いつだって唐突に出会いはあるものだし、別れもある。
そして、そういう運命なのだとも思う。

この烏野高校に行った事だって、恐らく運命だったのだろう。




烏野高校新入生として入学式を終え、ようやく新しいクラスでの生活が始まった。
友達もそこそこできて、その友達と昼食をとっていた時にふと出た話題。
「そういえば、部活何に入るか決めた?」
「あー。そういえば決めなきゃなんだっけ」
お弁当を食べながら名無しさんはぼんやりしながら返事をした。
中学生の頃の部活は吹奏楽部だった。
最初はバレー部に入りたかったのだが、体育館への行き方がわからず、うろうろしているうちに、友達に連れられてすぐそこにあった音楽室に入ったのがきっかけだ。
音符も読めず、トランペットのトの字も知らなかったわけだが、なんだかんだで部長として中学校の部活動を終えることができた。
そこで、引き続き名無しさんは吹奏楽部に入ろうかとも思ったが、何故だか素直に入ろうと思えない部分があった。
「名無しさんって、バレー部に入りたかったんだっけ?」
お弁当も食べ終わり、紙パックの烏龍茶を飲みながら友人は名無しさんに問いかける。
「んー。そうなんだけど、そういうのって、中学校から入ってる人がやるべきなのかなーって。」
それに、と名無しさんは少し笑いながら付け加えた。
「今はそんなに興味ないからさ」
それを聞いた友人はへぇと特に深入りすることもせず、話題はそこで終わった。

放課後、名無しさんは大いに悩んでいた。
体育館に行ってバレー部を見るべきか、吹奏楽部におとなしく行って、演奏するか、迷っていた。
今回こそは体育館の行き方は分かるが、勇気が中々でない。
「…やっぱり帰ろうかなぁ」
そう呟いてから教室を出ると、黒縁眼鏡の小さな教師にぶつかりそうになった。
「っと…。すみませ…」
「あ!!君!ちょっといいかな!!手伝って欲しいことがあるんだけど!!」
「えっ、え?」
そう言いながら黒縁眼鏡の先生は強引に名無しさんの手を引っ張ってズンズン進んでいく。
あっという間に倉庫に着いてしまった。
「あのっ、先生?!」
「ごめんね〜!これを体育館まで運んでくれるかな?」
視線を先生からずらすと、そこには山のように積み上げられたスポーツ用品が入った段ボールの数々。見る感じ、バレー用のグッズばかりだ。
「そんな重くないやつはこれかな。よろしくね!」
「えっ、あっ、はい…」
先生から渡された段ボールと先生を交互に見ながら、曖昧な返事をして流れで手伝うことになってしまった。
「先生、体育館って…」
「あぁ、男子バレー部が使っている体育館だよ。今面白い新入生が来たらしくてさ。倉庫をあさってたらこんなにグッズが出てきたんだ。だから使おうと思って!」
「はぁ…。」
先生はどんどん進んでいくが、名無しさんは訳もわからないままよたよたと先生についていくのに必死だ。二人で廊下を進んでいくと、途中に、外に続く廊下がある。
「ここが、体育館」
「バレー部が占拠してるんですね…」
「まぁ、うちは幸いにも設備は整ってるからね〜」
先生に段ボールを体育館前に置くように指示された。名無しさんはその通りに段ボールを置いてから、ふと体育館の中を見遣った。
するとバレーボールが大きな音を立てて、床に打ち付けられていたところだった。
「うわ、すご…」
名無しさんは思わず感嘆の声を漏らした。するとそれを見ていた先生が自慢げに、すごいでしょと鼻をすん、と鳴らした。
「すごいも何も…。力が…」
「そうなんだよね〜。まだまだバランスは悪いけど、これからきっと伸びる!」
「はぁ…」
名無しさんは、目を輝かせてバレーについて熱弁している先生から再び視線をずらし、体育館へ戻す。
「もういっちょー!」など言いながら彼らはボールをひたすら追いかけていて、飛んでくるボール全てに貪欲に食らいついていた。
それにしても、彼は何者なのだろうか。オレンジ色の髪をしていて、周りより小柄だけど、確かな存在感がある。
アタックを打とうと必死だけれど、どこか力が足りない気がするし、不恰好だ。それよりも彼には基礎が足りない。
瞬時にそう思った名無しさんは小さく呟いた。
「あのオレンジの人、筋トレもっとしたほうがフォーム良くなる」
しまった、と思った時にはもう遅かった。我に返って先生を見ると、先生は驚いた顔でこちらを見ていた。
「えっ、と…。すみません。調子のりました。そろそろ帰りますね…」
しどろもどろしながら名無しさんは踵を返そうとした。
だが、それは先生が名無しさんの腕を掴んだことで、不可能となった。
そして先生は先程よりも目を輝かせながら一言。
「マネージャーやらない!?」

「えっ」

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