Innocent Dream

□Chapter2
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幼い頃から、人間観察が好きだった。
ショッピングモールだの、旅行先だの、どこにいってもとりあえずはその現地の人や観光客をひたすら眺めていた。
最初のうちは無心で眺めていただけだが、次第にその人の表情や雰囲気でなんとなくだが、何を考えているか、機嫌などを伺うことが難なく出来た。
個人的にはその力がついて苦労したことはなかったし、寧ろ人間関係においてスムーズに事が進むようになった。
だが、まさかその力がここで裏目に出ようとは。
「マネージャーやらない!?」
この一声で名無しさんの生活は大きく変化する。

「えっ」
名無しさんは冷や汗をかきながら思わず聞き返した。
「ですから、マネージャーやりませんか?名無しさんさん、凄い観察力があるとみました!」
先生はメガネをくいっと上げながら言った。
「で、でも初心者っていうか…。なんも知らないし…」
「いいんだよ!僕だって、わからない事だらけだけど、顧問だし!」
「…大丈夫なのか…それは…」
「大丈夫ですよ!まぁとりあえず見学だけでもして行ってくださいよ!」
「…。」
ここまで推されると後には引けない。名無しさんはとうとう諦めて大人しく体育館に入る事にした。
「ちわーーっす!!」
「うぉおっ」
名無しさん が一歩足を踏み入れた瞬間、部員たちが一斉に挨拶をしてきた。
思わず変な声を出してしまった名無しさんは先生の横で顔を赤くし、少し俯いた。
「あれ?武田先生。その子は…?」
「あぁ、マネージャー志望で見学に来た子!」
ひときわ背が高く、がっしりした体つきの人が先生に話しかけた。部長だろうか、他の人にはない貫禄さがある。誰かが彼のことを大地さんと言っていた。その名前がすごくあっている気がした。
 そういえば、先生って、武田っていうんだ…。覚えておこう。
そう思って我に返った時にはもう遅かった。武田は名無しさんの事をすでに『マネージャー志望者』として扱おうとしている。
「ちょちょちょちょ「新しいマネージャー?!」」
すぐさま否定しようとしたものの、彼らは一瞬で目を輝かせて、武田先生は「勝った」と言わんばかりのドヤ顏をしている。
「こんなところでよかったら本当に大歓迎だよ。ありがとうな」
灰色の髪で、声が少し高めの先輩が笑顔で話しかけてきた。なんだか、この人にそんなことを言われてしまったら、もう断ることができないというか、断ったら申し訳ないような、そんな雰囲気があった。
「俺は菅原。みんなにはスガさんって呼ばれているけど、好きな呼び方でいいよ」
「あっ、はい!スガさん!」
思わず返事をしてしまった。もう断る以前に、帰ることももうできないと悟ったのはこの時だ。
もうここまできたら諦めて、まだ入学したてで、同じ学年も先輩も誰が誰だか分からないので、適当にみんなに軽く挨拶をしていた。
その中におそらく部内で一番背が高く、どこか冷めたような雰囲気を出している人がいた。
「え、っと、宜しくお願いします」
他の人と同じように挨拶をする。背が高いし、変な威圧があるから個人的には少し苦手かもしれない、と思った。
「ん」
返事も他の人と比べてかなり短い。この先関わることはそんなにないだろうと思いながらその日は挨拶だけで終わった。

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