Innocent Dream

□Chapter5
1ページ/1ページ

朝、名無しさんは真っ先に山口のところへ向かった。
いちごオレを片手に。
席に座っている山口の前に出て、いちごオレを差し出しながら「ごめんなさい!!」と頭を下げた。
「えっ?ど、どうしたの?」
「昨日山口くんが月島にシメられたって…。」
「あ、あぁ…大丈夫だよ」
名無しさんがもう一度謝ろうと思い頭をさげようとすると、山口は慌ててそれを制した。
「本当に大丈夫!ツッキーはいつもあんな感じだし!」
「そ、それならいいんだけど…。」
少し安堵の表情になった名無しさんをみて山口は微笑む。そしていちごオレに視線をずらす。
「これ、どうしたの?」
「あっ!昨日のお詫び!…お詫びの品といっちゃあ、粗品ですが…。」
「いやいや!ありがとう」
山口が名無しさんからいちごオレを受け取ろうとした時、横から別の手がいちごオレを軽々と取り上げた。
「ほ?」
思わず間抜けな声が出る。手が伸びてきた方を見ると、そこには月島がいちごオレを持っていた。
おそらく登校したばかりなのだろう。鞄が肩にかかったままだった。
「えっ、どうしてここに。」
「同じクラスだから。」
「じゃなくて!!いちごオレ返してください」
名無しさんは慌てて月島からいちごオレを取り返そうとするが、月島の身長では名無しさんには無理がある。月島が少し腕を上げただけでもいちごオレはすでに手が届かない状態になっていた。
「なんでこんなこと…!昨日のことなら謝りましたよね!」
「山口はいちごオレ好きじゃない」
「…ほっ?」
また間抜けな声がいつもの教室のざわめきに混ざってなくなる。
月島はニヤッとするとまた追い討ちをかけるように続けた。
「山口はカフェオレ派だよ〜?」
その瞬間、名無しさんは疾風の如く自販機に向かっていった。
それを呆然と眺める山口とおかしそうに小さく笑う月島。
「ツッキー…。カフェオレ派はツッキーでしょ。」
「僕も飲めるでしょ。奢りで。」
「性格悪いよツッキー…。」
山口は小さくため息をつくと月島からいちごオレを受け取る。
「カフェオレもらったら僕にちょうだい」
そう一言残して、月島は自分の席に向かった。

「やっ…。山口くん…っ、カフェオレ、です」
全力疾走だったため、息が弾んでいる名無しさん。昨日から走ってばかりだとしみじみ思いながら、山口にカフェオレを渡す。
「あっ。ありがとう…。なんか本当にごめんね」
山口はカフェオレは月島のために買ったようなものだということで、罪悪感で一杯だった。
そのためか、言葉がしどろもどろになる。
「お金、返すね」
そう言って手早く名無しさんの手に握らせると颯爽と「トイレ行ってくるね」と言って名無しさんから離れた。
名無しさんはぽかんとしながら、席に戻った。
月島がその様子を見て笑っていたことにも気づかずに。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ