Innocent Dream (sea)

□首
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「…っ」
そんな名無しさんを見て、サンジはほんの一瞬目を見開いた。そして静かに名無しさんを抱えていた手を離し、目を伏せる。
「…俺ァ頭がおかしくなっちまったのか…?」
「?…なんのことだ?」
タバコを片手に取り、静かに紫煙を吐く。そのサンジの先程とは打って変わった態度と、意味不明な発言に肩で息をしながらも名無しさんは首をかしげた。
「気持ち悪いな。急にどうしたんだよ」
そして仕返しとばかりに名無しさんはバッサリとサンジに悪態をついた。
「いや、何でもねぇよ。クソガキ」
「クソガキじゃない」
サンジはそう言い残すと、ふらっと名無しさんに背中を向けてキッチンらしき部屋にこもっていった。
名無しさんはあいかわらず首を捻るばかり。ナミは呆然としてて、名無しさんと同じくサンジの行動が全く読めなかったようだ。
「まぁ、いつもおかしいからいっか」
ナミがやれやれというように名無しさんに近付く。名無しさんはまた何かされるのかと身構えると、大丈夫よと言いながらナミは名無しさんの顔にずいっと自身の顔を近付けてきた。
「ねぇそれよりもアンタ。本当に男なの?」
「…勿論」
「へーーぇ?」
「男だよ」
男と言い張る名無しさんとへーとかふーんとか言ってるナミ。そんな異様な光景の中に先程の笑い声がこちらに向かってきた。
「っははははははははは!!!」
「おい待てコラ!このウソップ様のデザートを食べるたァいい度胸じゃねーか!!」
足音が段々大きくなる。その音でナミは「来たみたいね」と呆れながら名無しさんから離れた。
名無しさんはようやく一息つくと、今回の最大の目的、ルフィの声の方に目をやった。
「おっ!おまえどうしたんだ?」
ルフィもじっとこちらを見つめる楓に笑いながら質問する。
名無しさんもよそ向けの笑顔をルフィに向けると、会えてよかったですと返事をした。
「実は…」
そう言って地面を静かに、だが力強く蹴り、ルフィに向かって走り出した。
「!?うわわっ!」
不意を突かれたルフィは名無しさんの速さに追い付けないまま、首を掴まれて名無しさんに押し倒された。
「貴方の、首を」
ルフィの細いけどしっかりした首をやんわりと抑えながら名無しさんはルフィをみつめる。ナミとウソップが慌てた様子で走って向かってくるのを横目で見ながら、名無しさんはさらに続けた。
「頂きに。」
「なんだオメェ!!!」
ルフィが力ずくで名無しさんから離れる。そうやっている間に、船内にいた他の面々も集まってきた。ゾロにロビン、先程キッチンに引きこもったサンジまでもが威嚇してルフィの後ろにつく。総出で名無しさんを警戒している状況にもかかわらず、名無しさんはゆっくりと麦わらの一味の方を向き、笑顔を見せた。
「…何笑ってんだお前」
ゾロが泣く子もだまるような睨みを効かせて名無しさんを見やる。名無しさんはその視線からそらすこともせず、ただじっとゾロを見つめ返していた。
「こんな人達に…」
殺されるだなんて。
「…素晴らしい一味だ」
最高だ。
「あなた、さっきから何を言ってるの?」
ロビンが予想通りの冷静さで名無しさんを窺う。
「僕も出会いたかったもんです。」
ロビンを無視して一歩、また一歩と一味に近付く。最期の出会いと、そしてこれから訪れる最期の別れに感謝をしながら、ルフィに蹴りを入れた。
これが戦闘開始の合図だというように。

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