傍観者の干渉

□探偵の付き添い 前
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「おーとめっ!」
「はい、なんでしょう?」
「明日出張するから、お供して!」
「良いですよー?」

 翌日の昼間である。昼間……否、夕方か。探偵社の自身のデスクで本を読んでいた天宮は、江戸川の声に顔を上げる。読んでいる本はどうやら昨日と同じ物らしい。本の具合から見て幾度目かの再読の様だ。
 江戸川の唐突な出張宣言を予想していたのだろうか? 天宮は驚きも慌てもせずに返した。

「そう仰ると思って、わたしの準備は終わってます。」
「ちぇー。」

 どこか残念そうな江戸川。それもその筈。自身の行動が予想されていた事実に不満を抱いているのだ。江戸川は天宮が入社してから此の方、この後輩が一度も江戸川の唐突さに驚いた素振りを見せた事が無い事を記憶していた。名探偵たる江戸川には、その様な些末事は難なく記憶出来るのだ。

「で、今日も今日で無能な市警の為に近場に事件解決しにいかなきゃならないから、乙女、ついてきて!」
「勿論ですよ、乱歩さん!」

 ニコニコと、実に楽しそうである。
 国木田と太宰は名(コンビ)として活躍しているが、江戸川と天宮の場合は少し違う形でその名が広まっている。曰く微笑ましい兄妹だと。
 江戸川は男性にしては小柄で、尚且つ普段の言動も幼く見える。天宮はそもそもヒトとして小柄であり、江戸川に合わせる為なのか、幼く見える様に振る舞っている。武装探偵社の社長以外で、天真爛漫、傲岸不遜、天衣無縫を絵に描いた様で、その癖猫の様な気紛れを発揮する江戸川を制御出来るのは天宮のみとも言われている。――それは江戸川と同じく奇行の多い太宰でも同じ事が言える。だが太宰は社長の制御を受け付けない場合もあるため、何方が厄介か。
 ともあれ小学生とも思える兄妹の様な二人は、探偵社の癒しなのである。

「……ああ、そうだ。今回の事件の犯人は君では無いから安心して。」
「良かったです。」

 瞬間、笑みの方向性が変わる。江戸川は笑みを消し、天宮は微笑とも言える静かな笑みになる。
 江戸川が言った事の真意は、また後程語られるであろう。とりあえず今は現場に向かうのが重要である。

「さ、乱歩さん。現場に急ぎましょう? 無能な市警たちが貴方を待っていますよ!」
「はっはっは! そりゃ勿論さ! 何せ僕は……」

 二人がいつもの笑顔になる。そして声を合わせて言うのだ。

「「名探偵なのだからね! /なのですから!」」

 そうして二人は顔を合わせてクスクス笑うのだ。その様子を見た他の社員は、皆一様にほっこりとした笑顔になる。
 
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