傍観者の干渉

□探偵の付き添い 前
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 二人が着いたのは、横浜を流れる川の一つ。そろそろ陽が暮れ、本日の調査はそろそろ打ち切りになりそうな時分である。

「やぁやぁ! この僕が来たからには安心しなさい! 他に類を見ない名探偵の登場だよ!」

 そう言いながら、江戸川は馴染みになった刑事の元へ寄る。勿論天宮も一緒だ。

「おぉ、待ってたよ。今回も中々難しくてね。昼から調査していたのだが、手懸かりも、凶器すらも分からない。だから名探偵のお知恵を拝借したくて。」
「そうでしたか。」

 江戸川の代わりに答えたのは天宮だった。

「それで、事件のあらましは?」
「……川原に遺体が遺棄されていた。見付けたのは釣り人で、発見された当時は彼方此方に解体された遺体が散らばっていた。」

 刑事が重々しい口調で話し出す。その傍らで江戸川は遺体の様子を撮った写真を見ていた。

「ふぅん? 死体遺棄事件、と云う訳ですか。なるほどなるほど。乱歩さん、小生も写真を拝見しても宜しいですか?」
「勿論さ。君好みの凄い有り様だよ!」

 江戸川の横から覗き込んだ写真。そこにはブルーシートの上に乗せられた遺体が。どうやら外見は凡て揃っている様だ。

「ねぇ、これってさ。」
「ん?」

 江戸川が笑みを消す。名探偵としての真価が発揮される瞬間だ。天宮が心なしか輝いた顔で江戸川を見ている。手を組んでいる……らしい。袖に隠れて見えない。

「これってさ。内臓が一部足りないって事はない?」
「……その通りだ。」
「じゃあこれ、単発じゃないですよ?」

 江戸川の疑問に答えた刑事。彼の言葉を受けて天宮が軽い調子で話し出す。

「は?」
「え? 単発で無いんですよ。最近、多発しているんですよ。単発でないなら多発しかありませんよーう。」
「そんな情報、どこにも……!」

 そりゃ、そうですよ。と天宮が付け足す。江戸川は天宮の証言に真剣に耳を傾けている様だ。

「だって裏社会の奴が揉み消してたんですから。今までの被害者は全員奇跡的に裏社会の人間なんです。この街は石を投げれば裏社会の人間に当たります。夜限定で。きっと今回もそれですね。始末する前に市警が確保してしまった。」
「ふうん。」

 江戸川が静かに先を促す。天宮は江戸川を見て笑いながら頷く。

「小生も風の噂程度の事しか知りませんけどね? ここ数日裏社会の人間が次々に失踪したかと思えばバラバラで見付かるんです。未だポートマフィアの人間は被害に遭っていない様ですが……時間の問題でしょうね。その死体の共通点は一つ。バラバラで見付かり、内臓が足りない事です。」
「……確かにこれも足りないね。これ、男だろう?」
「日本に現れた切り裂きジャック……そう、噂されていますね。次に犯行が発覚すれば恐らくポートマフィアが動くと思っていましたが……大変だ。」

 天宮が空を見上げて、無感動に呟く。

「逢魔刻……もうそろそろ彼らの時間になってしまいます。乱歩さん、解決するならば早急に。」
「んー……もう分かった。超推理をするまでも無い。無いけど……厄介だ。」
「ええ、でしょうね。」

 ――忘れていた。この二人が広く知られている理由は、兄妹の様に仲睦まじいだけでもない。
 天宮が有する情報群は、圧倒的で。江戸川が有する異能は、圧倒的で。二つが上手く組み合い、立ち処に事件解決がなされる所にあるのだ。

「……これは市警を動員してはいけないな。どうする?」
「いえ、市警は居ないと逮捕出来ませんよ? 大人数は必要無いですが。」
「出来る?」
「勿論です。」

 短く言葉を交わし、作戦会議は終了した。
 
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