SS集
□湖の妖精
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それから数ヵ月が経った頃、妖精の話で青年は湖に現れなくなったと聞き、あの湖へ行くことにした。
久しぶりの湖はやはりとても綺麗で、水の上に乗ると、まるで舞うように踊る。
だが、心に穴が開いたような気持ちになる理由はわからない。
そんなことを考えながら舞っていると、突然何処からか拍手が聞こえ視線を向ける。
「なんで……」
いるはずがないというのに、そこには青年の姿があり、何故か心に空いていた穴が埋まっていく。
「もう来ないのかと思ったよ。でも、また会えてよかった」
その言葉で目頭が熱くなり、それを隠すように青年に背を向ける。
「私は貴方と会いたくない」
「え、何故だい?」
「私は妖精なんかじゃないからだ」
そう、私は人間とは仲良くなれない魔女。
この青年も、もし目の前にいる女が魔女であることを知れば、街の人達を連れて殺しに来るに違いない。
だが、このまま嘘をつき続けることが苦しくなり、いっそのこと真実を伝えた方のが楽になれるかもしれないと思った。
自分が魔女であることを伝えようとしたそのとき、背後から暖かな温もりがフレアを包み込む。
「妖精さんは妖精さんだよ。僕は君を見たあの日から、一日だって君を忘れたことはないよ」
「違う……。私は、妖精じゃなくて……」
青年の温もりから離れると魔法を使い、目の前の湖を凍らせて見せた。
「私は魔女だ」
これで全てが終わる、そう思った。
そう思ったというのに、青年が発した言葉に涙が頬を伝う。
魔女でも関係ない。君は僕の妖精さんだから
何百年も孤独に生きてきて、思い出してしまった人の温もり。
だが、いくら時が経とうとも、人間が自分達の仲間を殺したことに変わりはない。
そんな人間を愛してしまった自分は許されるのだろうか。
二人抱き合い唇を重ねる。
私が小屋へ戻ると、ニシシと笑う妖精の姿。
青年が来なくなったというのは妖精の嘘だったのだとわかる。
そのお陰でまた人間の温かさに触れることが出来たのだから、今回は大目に見ることにして眠りにつく。
だがその翌日以降、青年が湖に現れることはなかった。
「やっぱり、魔女と人間が仲良くなどなれるはずがなかったんだ」
そんなことをポツリと呟くと、妖精が慌てた様子で小屋へと入ってくる。
一体どうしたのか聞くと、私はほうきを持ち外へ飛び出した。
ほうきに跨がり何百年振りかの街へ向かう。
人間に気づかれないように、空から探し青年を見つけた。
眠るようにして棺の中に入っている青年を。