SS集
□夕陽に染まる
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人には初めてが沢山あり、高校生にもなると、その初めては恋愛の話がほとんどとなっていた。
「えーッ!? 彼氏がいたことがないって本当?」
「しーッ! 春ちゃん声大きいよ」
声を上げる友人の春ちゃんに、私は自分の口の前に人差し指を立て恥ずかしそうに言う。
春ちゃんは「ごめんごめん」と言いながら再び椅子に座るり話を戻したので、私は今まで彼氏がいたことのない事実を話す。
私は恥ずかしがりやで怖がり、そして臆病でもある。
ラブレターを貰って指定された場所に行っても、隠れてるから相手に気づかれず、相手はフラれたと勘違いして終わる。
直接告白をされたこともあるけど、その場合は恥ずかしさのあまりその場から逃亡。
相手はその反応に嫌われたと思い諦める。
「んじゃさあ、折角高校生にもなった訳だし、彼氏を作ることを目標にしたらどうよ」
「え!? ムリムリムリッ!!」
体の前で両手を思い切り振ると、春ちゃんはその手を掴み、真剣な表情で言う。
「このままでいいわけ? 変わりたいと思わないの」
「っ……でも」
「大丈夫、私も協力するからさ」
「春ちゃん……。わかった。私、頑張ってみる」
ようやくヤル気になった私の様子を見て、春ちゃんは誰か良い相手はいないかと教室を見回す。
そしてその視界にある一人の男子生徒が入る。
窓際の一番後ろの席であり、私の2つ後ろの席。
その男子生徒はいつも机に突っ伏しており、先生に呼び出しをくらっているのを何度か見たことがある。
「あの人なんてどう? 一見不良っぽくも見えるけど、案外ああいうタイプが優しかったり――」
「絶対にムリッ!!」
言葉が言い終わるより先に私の否定の言葉が被さると、大声を出したことで私は皆から注目を浴びてしまう。
恥ずかしさのあまり教室を飛び出すと同時に予鈴がなるが、そんなことにも気づかず走り続けていると、使われていない教室を見つけ駆け込んだ。
床に座り、足を抱え込むように丸く座り顔を伏せる。
あんな注目を浴びたあとに教室に戻れるはずもなく、私は授業をサボってしまった。
それから時間は過ぎ、いつの間にか無人の教室で眠ってしまっていた。
「んっ……私、いつの間にか眠ってたんだ。って、時間っ!!」
教室の中を見回すが、周りには何もない。
使われていない教室なのだから当然だ。
時間を知りたいがスマホは鞄の中。
教室に戻ることもできず、更に縮こまりながら泣きそうになっていると、廊下から足音が聞こえてくる。
まさかこの教室に来る人なんていないだろうと思っていたが、その足音は戸の前で止まり、私の目の前の戸が開かれた。