SS集

□その姿は一人の女
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 私の事を皆が避ける。
 ヒソヒソと話す声。
 きっと私の悪口だろう。

 だが、そんな私に普通に接する男がいた。
 それは、私がもっとも尊敬する人物、近藤さん。

 彼はここ、新選組の局長であり、誰にでも優しい人。
 こんな私にも優しくしてくれるのだから。



「今日も鍛錬か」

「はい。もっともっと強くなり、近藤さんのお役に立ってみせます」

「はははっ! 頼もしいな」



 私の頭に大きな手が置かれ、何だか子供扱いのようでムッとしてしまう。

 でも、この手に安心するのも事実で、周りにどう思われようと救われた。
 この人に、近藤さんだけに嫌われなければ構わない。

 私は、新選組一番組隊長、沖田 総司。
 刀の腕なら一くんにだって引けは取らないつもりだ。
 だが、強さを求めた結果、私は周りから『バケモノ』と呼ばれるようになった。

 その理由は、近藤さんに認められたくて、人を斬る際に笑みを浮かべてしまうから。
 鬼の副長、土方さんなんかより私が上なんだと自分に言い聞かせるために。

 どんなに努力しても、私は土方さんには敵わない。
 近藤さんが一番信頼しているのは土方さんなんだから。


 その日、巡回に一番隊が出ていた時、町中で揉め事が起きた。
 言い争う声に、外で隊を待たせ店の中に入ると、そこには店の店主と三人の男の姿。
 止に入ろうとするが、三人の男は腰に差していた刀を抜き、その内の一人が私に斬りかかってきた。



「新選組が、偉そうにしてんじゃねーよ」

「不定浪士、か。いいよ、相手になってあげる」



 瞬時に抜いた刀で受け止めると、私はニヤリと笑みを浮かべ、力で男の刀を押し返す。


 それからほんの数時だ。
 足元には三人の男。
 私の手には血で汚れた刀が握られている。

 その光景を見た隊士達の瞳には、笑みを浮かべる私の姿がバケモノに映った。


 屯所に戻った私は、血で汚れた隊服を脱ぎ自室へと向かっていた。

 その途中、土方さんと鉢合わせたため、軽く挨拶をして通り過ぎようとすると呼び止められ、私は立ち止まり土方さんへと振り返る。



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