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□困ったときの神頼み
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 人は困った事があると神に頼る。
 そんな人間の世界には「困ったときの神頼み」などという言葉もあり、神である私は鼻で笑う。

 昔は神を崇める人間は多くいた。
 なのに今はどうだ。
 お供えどころか拝むものすらいない。
 そんな者の願いをきいてやるほど神は優しくはない。

 そんな日々が過ぎて何十年。
 この神社に一人の青年がやって来た。



「神様、どうか母さんを助けてください」



 そう願い去る青年。
 初めて見る顔だ。
 また人間の、困ったときの神頼みだなと思いながら、私は青年の事が示された時の書物を開く。

 人間は増え過ぎた。
 ひとりひとり把握することは神にも不可能。
 だが、昔からあるこの時の書物のお陰で知りたい人間のことがわかる。

 人間ひとりひとりの事が事細かく記されている書物。
 勿論こうしている今も書物は増え続け、ページも増え続けている。

 私はパッと手にあの青年の事が記された書物を出現させ、ペラペラとページを捲る。
 人が生きた分だけページ数は増すが、若い人間も人生が濃厚ならそれなりのページ数となる。



「なるほど。母親が病にかかり余命が残り僅かなのか」



 だからといって何かをしたりはしない。
 人が生を受け、そして死ぬのは自然の法則。
 変えることなど許されない。

 そんな私を知ったら、人間は何と言うだろうか。
 自分の願いが叶わないとき、決まって人は誰かのせいにする。
 神に頼り願いが叶わなければ、あの青年は私を、神を恨むだろう。



「神様、あの青年可哀想じゃないですか? あの年齢にしては書物のページ数もありますし」



 天使見習いが言う言葉もわからなくはない。
 だが、人は神という存在を勘違いしている。
 私達神は世界を見守るだけの存在。
 簡単に願いを叶えたり人の生死に関わることなど許されない。



「私達の使命はわかっているでしょう」

「はい。ですが、少し可哀想で」

「だからアナタは見習いなのですよ」



 書物を閉じ、私は人間の観測者へと戻る。
 それが神であり、神の存在意味なのだから。



困ったときの神頼み
 

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