短編集
□神という名の悪魔
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この世に神がいるのなら、どうか次に生まれ変わる時は幸せになれますように。
私は死ぬ間際そう願った。
なのに、目が覚めた私は手を鎖で拘束され牢の中。
鏡がないためわからないがドレスを着た成人女性のようだ。
前世の記憶もあるし、これは生まれ変わりではないのだろうか。
私の想像では前世の記憶はなく、赤ちゃんから人生を始めると思っていた。
それに、すでに成人女性なんて可笑しい。
そもそも何故私は牢にいるのか。
状況が呑み込めない私の元に、足音が近づいてくる。
蝋燭のぼんやりとした灯りの中現れたのは、黒い髪に青い瞳、黒い服装に金の飾がほどこされた、いかにも悪役っぽい人。
「目覚めたようだな、囚われの姫」
「貴方はいったい誰なの? それにここはどこ」
兎に角状況を知りたくて尋ねると、男は牢の鍵を開け中へと入ってくる。
男は私の顎を掴むと無理矢理自分へと向ける。
青い瞳が怖くて声が出ずにいると、男はフッと笑みを浮かべ私の鎖を外すと「続きは部屋に戻った後だ」と言い、私を牢から連れ出す。
地下にあった牢から出ると、そこはどこかのお城の中だった。
まるで童話の中のような光景に立ち尽くしていると「早く来い」と呼ばれ、私は男のあとを着いていく。
部屋に行くまでの間に何人かの人と擦れ違ったが、皆が頭を下げた。
この男はこのお城の主ということなのだろうか。
「座れ」
命令口調にムッとしながら椅子に座ると、男は突然話し始める。
私が今いるこの場所は、この国で一番の権力を持つ貴族のお城。
その若くして当主となったのがこの男、ベレン・ブルムン公爵。
そしてその妻が私、スレン・ブルムン。
ここまででツッコミどころは沢山あるのだが、淡々と話すベレンの言葉に私が声を掛ける隙などなく、今は大人しく話を聞く。
「お前の前世での願いは幸せになること。なら、この城にいる限りお前の幸せは保証されるわけだ」
「確かにそうだけど……って、何で私の前世や願いのことまで知ってるの!?」
「それは、俺がお前を転生させた神だからだ」
私の前世での願いや転生を知っていることから神だというのが本当だということはわかるが、だからといって何故私は牢にいたのか尋ねれば「俺の趣味だ」なんて言うものだから、新たな人生に不安しか感じない。
「取り敢えず大体はわかったけど、その神様がなんでここにいるの? それも私の夫として」
「神の気まぐれってやつだ」
もはや何でもありだな、なんて心の中でツッコミつつ、私はこの世界での私は何をすればいいのか尋ねる。
だが返ってきたのは「することなどない」だった。
職務は全てベレンがするため、私はただお城の中でしたいように暮せばいいとのこと。
「お前の転生は神である俺しか知らないからな。変なこと言って周りに心配かけんなよ。話はこれで全部だ」
そう言いベルを鳴らすと一人の男が入ってきて、私はまだ聞きたいことがあるのに追い出されるように部屋に無理矢理連れて行かれた。
私の部屋には、貴族らしいフカフカの大きなベッドにクローゼット、机などが用意されている。
「こちらが奥様のお部屋となります。そして私は、奥様の身の回りのお世話をさせていただくシルバーと申します」
シルバーと名乗る男性は、見た目からして三十代。
大人の魅力というのか、見た目も優しそうでそのうえイケメン。
もしかしたらお決まりの恋愛に発展したりなんて考えたが、私はすでに結婚してベレンの妻だということを思い出す。
確かに願ったのは幸せになることだけど、好きな人出来て恋愛をして、そして結ばれてこその幸せのはず。
なのに、転生してすでに夫がいて、あとは残りの人生ダラダラ過ごせばいいなんてなんか違う気がする。
百歩譲って夫がいるのはまだ良しとしても、その夫が神様で、気まぐれで夫になったなんて人と愛し合えるはずがない。
つまり私はこの人生で、すでに恋愛は終わったということ。
「奥様、先ずは身体の汚れを洗い流してくださいませ」
シルバーに言われるまで忘れていたが、牢にいたせいで身体やドレスは汚れている。
一体あの神様は、私が目覚める前に何をしたのか。
私は身体の汚れを落とすため、シルバーに案内されてお風呂に入る。
綺麗に洗い流してサッパリしたからか、少しスッキリとした感覚だ。
用意された寝間着に着替えると、待っていたシルバーと共に部屋へと戻る。
ベッドに座ると、まだ濡れている髪を見てタオルで丁寧に拭いてくれるシルバー。
その距離が近くて顔がよく見える。
「どうかなされましたか?」
ついじっと見詰めてしまっていたため、なんでもないですと慌てて目を逸らす。
もし私が結婚していなかったら、シルバーに恋愛対象として見てもらえたかな。
なんて、私は一体何を考えているんだろう。
ここは転生した世界ではあるけど、漫画やアニメとは違う。
いくら結婚していなかったとしても、そう簡単に恋愛なんて発生するはずがない。
それにもしここが恋愛が発生するような漫画の世界なら、結婚していたとしても恋愛ルートがあっていいんじゃないかな。
私が望んだのは幸せになることで、それには恋愛をすることも含まれていたのだから。