短編集
□神という名の悪魔
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「奥様……?」
「っ! ご、ごめんなさい」
変なことを考えていたら、シルバーの頬に触れてしまっていて、私は手を引っ込めると顔を伏せた。
いくら恋愛がしたかったとはいえ、出会ったばかりの人相手にこんなことするなんて私はどうかしてる。
就寝時間。
シルバーが部屋を出ていくと、私は布団の中で眠れず今日のことを思い出していた。
前世で死ぬ間際に幸せを願い、私はこうして何不自由ない新たな人生を手に入れた。
普通なら喜ぶのかもしれないが、いきなりポンと用意された生活に神様の夫。
愛がないこの場所で、本当に私は幸せを手に入れたことになるのだろうか。
小説やゲームの世界に転生して、波乱万丈の日々を過ごしたいとは思わない。
それでも、最初から用意された幸せに本当の幸せを感じることなどできるはずがない。
翌日。
私はベレンの書斎に乗り込んだ。
追ってきたシルバーが私を呼ぶが、構わず私はベレンに「二人で話したいことがあるの」と伝える。
するとベレンはシルバーに下がるように言い、部屋には二人だけとなった。
「話とはなんだ」
「私は恋愛するから」
思いもしない言葉に神様であるベレンも流石に驚く。
「幸せを与えてやったのに今度は恋愛がしたいとはな」
「こんなのは幸せなんかじゃない。私は愛し合った人と幸せになるの」
「まあいい。今の幸せに満足できないなら、自分でその幸せを見つけるんだな」
一応婚約してるから言いに来たのだが、仮にも夫である人の反応とは思えない。
でも、伝えるべきことは伝えた。
私は幸せを手に入れる。
その為にも、先ずは運命の相手と出会わなければならない。
こういうときお決まり展開で、転生者に恋する男性が現れたりする。
そして私は愛と幸せを手に入れる。
この時はそう思っていた──。
それから数週間が過ぎた。
なのに出会いなんて全く無い。
私のお世話をしてくれるシルバーに、お城のことなどをしてくれる使用人達。
最初はシルバーとの恋愛があるんじゃないかと思ったが、シルバーは普通に私のお世話をする毎日で何のイベントもない。
そもそも私はこのお城の女主人、普通に考えて恋愛として見られるはずがなかった。
私が婚約した相手はこの国で一番の権力者。
そんな人の奥さんに手を出す人なんているはずがないし、使用人達も私を奥様としか見ていない。
少なくてもこのお城にいる人達との恋愛はなさそうだ。
それに、私が好きだと思える人がいない。
最初にいいと思ったシルバーも、一番一緒に過ごす時間が長いからか、今では気の許せる家族みたいに思うようになってしまっていた。
それにシルバーも、他の使用人達と同様に私を女主人として見ている。
こんな状況で恋愛なんてイベントが起こるはずがない。
せめてよくあるパターンのイケメンお客様が来てくれないだろうか、なんて考えていたら、私の願いは現実となった。
「アラン公爵?」
「はい。今日はアラン公爵様が奥様にご挨拶をする日でございますので」
挨拶なんて全く聞いていないが、待ちに待った恋愛イベント。
神はこのお城にいるわけだけど、別の神様がきっと私の願いを聞き届けてくれたに違いない。
それに何より、ブルムン家と一二を争うほどの権力者なら、私がベレンの妻であろうと、関係なく恋愛としても見てもらえる可能性がある。
でもだからといってお互いが愛し合って結ばれなければ意味がない。
私は恋愛がしたいんじゃなく、その先の幸せを手に入れたいだけなのだから。
早速まずは情報収集をするために、シルバーにアラン公爵のことを聞く。
そしていくつかのことがわかった。
アラン公爵はベレンとの交流があるらしく親しい間柄だということ。
年齢は私やベレンと同じくらい。
そしてまだ婚約をしていない。
一番重要な情報をゲットしたところで、次に大切な見た目を尋ねたら、何故シルバーは少し困った表情を浮かべて答えなかった。
だが、婚約していないとわかっただけで十分。
見た目や性格は会ってみればわかること。
そして時間は過ぎ、私は一番可愛いドレスを着て部屋へと入る。
そこにいたのは、椅子に座るベレンと、人を何人か殺しているんじゃないかという人。
目付きは鋭く顔にはキズまである。