劇団員たちと見る夢

□不思議な国に落ちたら
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「不思議の国のアリスかぁ〜

昔読んだなぁ♪」



カントクが俺の横で台本を開きながら、上機嫌でそう言った



「でも小さい頃、何となく怖かったんだよね…

真澄くん、原作本の挿し絵見たことある?
あれけっこう不気味じゃない?w」



カントクが言ってるのはたぶんジョン・テニエルの挿し絵のことだろう

いくつもの映画化作品が作られるにあたって、そのイメージの形成に大きな役割を果たしていると言われている挿し絵だ


確かに…… あれには現代の童話にはない不気味さがあり、よりあの世界が不思議だと思える








「でもアリスって勇敢だよね〜…
あんな不気味で不思議な世界でさ、冒険…てか探索したり?

不安だらけで、わたしなら絶対どこにも行かずに隅っこでうずくまってるなぁw」



自虐的に笑うカントクも、やっぱり可愛らしかった










「でも……… 未経験の演劇の世界に飛び込んで、真澄くんにとってはこの世界もある意味不思議の国……

ワンダーランドじゃない?」


「………え?」





カントクを見ると、笑顔だが………
少し憂いのあるような… 何だか申し訳ないと言わんばかりの表情をしていた







「高校生でさ

しかも知り合いも誰もいないこの劇団に……








…………不安だらけの世界、だよね………」







呟くようにカントクが言った








…………きっとこの人は俺のことを心配してくれている



そう思ったら胸が高鳴った











「アンタがいれば、大丈夫…

確かにこの演劇の世界は… まだまだ知らないことだらけで俺にとって不思議の国かもしれない……


でもアンタとだから……… うまくやれる




だから俺が不思議の国に落ちたら……

カントク、来て」



本気で、そう思ってる







俺があまりにじっとカントクを見つめるからだろうか…

カントクは頬を少し赤らめて、俺から視線をそらせた




「面と向かってそう言われると…… 照れるな////


で、でも…そもそも真澄くんって、アリスが落ちた不思議の国でも、ちゃんとやっていけそうだよね」


「………わかんない


てかアンタがいない世界なんてどうでもいい」


「またそんなこと言って………w」





カントクは俺の発言をいつものように流してしまう


でも、また台本に目を落としながらゆっくり言葉を紡いだ













「……行くよ

真澄くんが不思議の国に落ちちゃったら
わたし、行くね


だから、わたしが不思議の国に落ちたら
真澄くん来てくれる?










……真澄くんがいればわたしもうまくやれそう







……なーんてw」



「………………………」






胸が、トクンと鳴った


いつもカントクのことを好きだ、可愛いだと面と向かって言えてる俺なのに


愛しいカントクが不意にくれる言葉に
すごく弱い……






「………必ず行くっ!」


自分で驚いてしまうくらいいつもより大きな声が出ていたので、少し恥ずかしくなってうつむいた



そして今度は気持ちを落ち着かせ、ゆっくり言葉を紡いだ
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