劇団員たちと見る夢

□前世の恋があるならば
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それは……冗談半分で始めた

即興劇(インプロ)のはずだった



















「………至さんっ

こんなとこで、寒くありませんか?」





バルコニーの手すりに寄りかかるようにして、台本を読みふけっている至さんに
わたしは声をかけた





「あぁ… 監督さん

寒くはないかな〜 でも夜はまだ風が冷たいね」


「今回の役、いつも以上に気に入ってるんじゃないですか?w」

「当然!」

「…………😊💦」


わたしの言葉に至さんは食いぎみに答えた






「隻眼の魔法使い役とかアガる」


「そ、そうなんですね〜…」


「しかもその片方の眼でどこでも見られるとか…」


「…至さん、そういうの好きですもんね😊💦」





彼の中二病は相変わらずだ……w

わたしにはよくわからない世界観だが、そうやってはしゃぐ至さんがちょっと子どもっぽく見えて…
そんな彼もわたしは好きだった





「俺…… やっぱり前世は
魔法使いだったのかも(真顔)」

「ふふwww そうなんですか?」


つい、笑ってしまった




「あー…笑ったなぁ〜( ̄^ ̄)

監督さんは前世とか信じないわけ??

そういうのあったら面白くない?」







至さんの言葉に、わたしは少し考えた

確かにそういうものがあったら面白いかも…




そして、冗談(イタズラ)半分で…… ある即興劇を思い付いた













「前世……… そうですね………


あるのかもしれません………











近頃思うのです…… あなたとは、昔どこかで

会ったことがあるのではないかと……」


「……………え?」




至さんの少し驚いた様な表情が見えた



わたしの下手な演技だから、笑われてどうせすぐに終わってしまうだろう

そう思った








「前世で…… あなたとお会いしてるのではないかと

感じることがあるのです……

そのことを考えると、いつも胸が苦しくなる……



わたしは何か………
大事なことを忘れているのではないかと」





至さんは、笑うこともなく
わたしの台詞を聞いてくれていた










「そしてあなたと出会ってから… 毎晩のようにある夢を見るのです……


暗く、悲しい夢……


闇の中に落ちていき











大切な誰かと離ればなれになる夢を……」






そこまでやってみたが、至さんが一向にノッてこないので
自ら終わりにしようと思ったときだった














「…………………姫……」


「ーーーー?」










至さんの香りが、やけに近くにある

近すぎる…… 鼻の先に彼の香りがある……






「えっと……… あの………」








自分が至さんに抱きしめられ、彼の胸の中にいることを理解するのに数秒かかった……




そして至さんが言葉を紡ぐ











「姫…… やっと………

やっと(めぐ)り会えた………」


「ひ、姫……?😓」





どうやら至さんはわたしの即興劇にノッてくれたらしい……













「あなたとわたしは、遥か昔に出会っています……

それは前世と呼ばれるもの……





王国の姫であるあなたと、黒魔術の使い手のわたし……

身分の違いはあれど、わたしたちは将来を誓いあった仲でした」


「…………ぇ、えーっと……」





どうやらそれが至さんが考えた設定のようだ








「周りの反対や妨害を乗り越え、やっと一緒になれる…… そう思った矢先……









あの夜が来てしまった………!」


「ぁ……… あの夜とは……?」







即興劇とはいえ、至さんの腕の中にいるのはどうかと思ったが……
ここで終わらせるのも無粋(ぶすい)な気がして、わたしも思い付いた台詞を続けた









「あの夜……
わたしたちの王国、いや、わたしたちの世界は終わってしまった……



そう………

















ワルプルギスの夜によって!


「わ、わる……??😓」


「何もかもが闇に飲み込まれていく最中、わたしたちは誓った……










来世は必ず一緒になろう

一緒に幸せになろうと…………っ」


「………………………」




わたしを抱きしめる腕に力が込められる

それに、至さんの声はこちらの胸が苦しくなるくらい切なさを帯びていた……
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