劇団員たちと見る夢

□そのまま寝たら肌が死ぬぞ
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「莇、ちょうどよかった

監督の様子どうだった?」


談話室に戻った俺に声をかけてきたのは、臣さんだった



「ぁ、えっと……………」







俺は自分が監督のメイクを落としてやったこと

監督に着替えとか頼まれたけど
とてもじゃないけどできないから
東さんと幸さんに頼んだこと… を臣さんに話した






「そっかそっか

東さんと幸が行ってくれたのかw

適任だな」


「…………うん」



「莇、もしよかったら監督にお粥、持っていってくれないか?」






キッチンに立つ臣さんの手元にはお粥を作った鍋があった




「あとは飲み物だな…

スポーツ飲料か、お茶か……」





臣さんは冷蔵庫を開けてペットボトルの飲み物を何本か取り出した






「……………さすが臣さんだな」


「ん……?」




俺はお粥が入ってる鍋を見た



「お粥って聞くと薄味で…… あまり美味いもののイメージなかったけど

これはうまそう

俺は、こんなの作れない………」




臣さんは舞台でも寮でも、この劇団に欠かせない存在だと思う



「でも、こういうのいいなって俺は思うぞ」


「………え?」


「それぞれができることをやって、みんなで乗り越えていく感じ


莇は莇ができることをやって監督を助けて…

東さんができること、幸ができること

俺ができること………


こういうの、すごくいいと思うんだ」





…………臣さんは嬉しそうに笑っていた






「さ、莇

冷めないうちに持っていってくれるか?」


「………………うん」







ここでの生活にまだ慣れたとは言えない

実家にも人はたくさん出入りしてたけど

劇団のやつらとは違う
(舎弟とかそういう奴らばっかりで…)

集団生活が得意とは言えないが









(臣さんが言うとおり……


こういうの、悪くないな)







それぞれができることをやって
1つのものを作り上げる


日常も舞台も、それは変わらないのかもしれない










ーーーーーーーー







「ぁ…… 幸さん、東さん……」


お粥を持って監督の部屋の前に行くと、ちょうど二人が出てきたとこだった





「おや?臣特製のお粥かな?

美味しそうだね😊」


「ちょうどよかったねー
監督、ちょっとお腹空いてきたかもって言ってたから」


後は任せたと言って幸さんたちは行ってしまった






「監督……? 入るぞ」





ゆっくりドアを開けて中に入ると、監督はベッドの上で体を起こしていた






「ーーいい匂い

お粥?作ってくれたの?」





監督がこちらを見てにこりと笑った






「臣さんがな……

食べられそうか?」



「うん、汗かいたらちょっと調子よくなったかも

持ってきてくれてありがとう」



「…………………/////」






監督に言われる《ありがとう》がやけにくすぐったく聞こえる






「…………監督

あのさ………」



「ん……?」






真っ直ぐ、お互いを見る










「俺にしかできないこと


俺にしかできない演技って……


あるのかな………?」










弱々しい声にしかならなかったが、監督はしっかり聞いてくれて



そしてゆっくり、微笑んでくれた












「あるよ…… 必ずあるよ

莇くんにしかできないこと

今だってたくさんある……!



だから

莇くんにしかできない演技

莇くんじゃなきゃいけない役


きっとあるから……









楽しみにしてるね…!」




「…………………っ//////」








自分から質問したくせに

返せる言葉が見つからない



顔がやけに熱いが、何故かそれが心地いい








「じゃ…… 俺、もう行くから」





そのまま監督の部屋を後にした














「あれ〜?あーちゃん?

何か機嫌良さそうだね

いいことでもあった〜?😆」




廊下に出ると太一さんと出くわした






「別になにも………」

「ぅ、相変わらずの塩対応……💦」







ふと、太一さんが台本を抱えていることに気づいた









「…………ぁ、そうだ、太一さん



あのシーンのことなんだけど…………」










この感覚は何だろう

初めてに近いくらい、胸が高鳴っている










柄にもなく、わくわくしている俺がいる












(早く監督に、俺の演技を見て欲しい…)




「太一さん、今のとこ、もっかい…!」




俺が咲くとこ、1番近くで見てくれよ

監督………















魂の湯切り!
命のスープ!

メラメラ功夫 へいお待ち!














〜fin〜


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